藤崎慎吾

藤崎慎吾（ふじさき しんご、1962年3月5日生）は、東京都出身の日本の小説家、SF作家として知られるとともに、ノンフィクションライターとしても活動している人物です。本名は遠藤慎一（えんどう しんいち）です。

彼の学歴は、まず埼玉大学で教養学部を卒業後、アメリカ合衆国へ渡り、メリーランド大学大学院にて海洋・河口部環境科学専攻で修士号を取得しています。この科学分野での専門的な学びは、その後の作家人生において作品の重要な基盤となります。

作家としてのキャリアをスタートさせる以前は、科学雑誌の編集や記者、映像ソフトのプロデューサーといった多様な職務に携わっていました。これらの経験を通して幅広い知識と視点を養いながら、並行して小説執筆を続けていました。そして1999年、『クリスタルサイレンス』（朝日ソノラマ刊）で満を持して作家としてデビューしました。このデビュー作は、その年の「SFが読みたい! 2000年版」で第1位を獲得するなど、高い評価を得てその後の活躍を予感させました。

藤崎氏の作品の大きな特徴は、科学的な知識と深い考察に裏打ちされたリアリティと、それを土台とした壮大なイマジネーションです。特に、彼が学んだ海洋科学の知識は、深海を舞台にした作品に顕著に活かされています。また、宇宙や生命、テクノロジーといったSFの王道的なテーマにも積極的に取り組み、科学と人間、社会との関わりを深く掘り下げています。ノンフィクションでは、難解になりがちな科学の話題を平易な言葉で解説し、読者の知的好奇心を刺激しています。

主な作品群を見てみましょう。長編小説では、デビュー作の『クリスタルサイレンス』のほか、『螢女』、近未来の社会問題を背景にした『ストーンエイジ』シリーズ（『ストーンエイジCOP』、『ストーンエイジKIDS』、『ストーンエイジCITY』）、歴史SF大作『ハイドゥナン』、海をテーマにした『鯨の王』、『祈望』、そして現代における深海の脅威を描く人気シリーズ『深海大戦 Abyssal Wars』（『Abyssal Wars』、『漸深層編』、『超深海編』）など、多岐にわたるテーマと世界観の作品を発表しています。また、『衛星軌道2万マイル』のようなYA（ヤングアダルト）向けの作品も手掛けています。

短編作品も評価が高く、短編集『レフト・アローン』には、SFファンジン大賞を受賞した表題作をはじめ、多様なテイストのSFが収められています。もう一つの短編集『風待町医院 異星人科』では、日常に潜む異星人との交流を描き、独特のユーモアと哀愁を漂わせています。これらの短編のいくつかは、様々なテーマのアンソロジーにも積極的に収録されています。

ノンフィクションライターとしては、科学者との共著による著作も多く、自身の科学的な知識を活かしています。深海探査の現実を描いた『深海のパイロット』、日本の地質リスクを扱った『日本列島は沈没するか?』、極限環境の生物を紹介する『辺境生物探訪記』など、専門家との対話を通じて科学の面白さや奥深さを伝えています。単著としては、生命科学の最前線を解説した『我々は生命を創れるのか 合成生物学が生みだしつつあるもの』があり、科学技術の進展とその倫理的な側面について考察しています。

文学賞受賞歴も見逃せません。2014年には、遠藤慎一名義で発表した短編「「恐怖の谷」から「恍惚の峰」へ ～ その政策的応用」が、第一回日経「星新一賞」の優秀賞に輝きました。これは、理系の知見を活かしたユニークな発想が評価されたものです。また、2024年には、『深海大戦 Abyssal Wars』および『深海大戦 Abyssal Wars 漸深層編』の中国語版が、第2回SF惑星賞において優秀賞を受賞するなど、その評価は国際的な広がりを見せています。

氏の所属団体としては、現在、宇宙作家クラブの会員として活動しています。かつては日本SF作家クラブにも所属していましたが、現在は会員名簿には名前がありません。

藤崎慎吾氏は、科学的なバックグラウンドに裏打ちされた精緻な世界構築と、ダイナミックなストーリーテリングで読者を魅了する作家です。深海や宇宙といった非日常的な空間をリアルに描き出す筆力は、多くの読者に科学への興味や探求心を抱かせます。SFとノンフィクション、両分野での活躍を通じて、現代社会における科学と人間のあり方を問い続けるその活動は、今後も注目されるでしょう。

もう一度検索