藤森桂谷

藤森桂谷：画家、歌人、そして啓蒙者

藤森桂谷（ふじもり けいこく、1835年10月6日 - 1905年7月26日）は、明治時代の長野県安曇野市（旧・豊科町）出身の南画家、歌人、そして教育者として知られています。画家としては桂谷、俳句では麦里、和歌では本名の寿平（としひら）といった雅号を使用し、その他にも複数の号を用いて作品を発表しました。

青年期：才能開花と京都遊学

安曇郡成相新田（現在の安曇野市）に生まれ、幼少期から和歌に親しむ環境で育ちました。地元の学問所で漢学、書道を学び、その後は漢学、和歌、絵画と幅広く研鑽を積みました。特に絵画においては、安政元年（1854年）、伯耆出身の南画家・古曳盤谷に師事。盤谷は勤皇派志士として著名な人物であり、桂谷の才能を見抜き、京都への遊学を強く勧めました。

安政5年（1858年）、24歳で上洛した桂谷は、京都で漢詩、絵画、和歌をそれぞれ名だたる師から学び、高い芸術的素養を身につけました。

壮年期：教育者・政治家としての活躍

明治維新後、桂谷は教育に力を注ぎます。まず、私塾を開設し、人材育成に尽力。高遠藩士や尾張藩の学頭などを招き、質の高い教育を提供しました。この私塾からは、自由民権運動家、政治家など、多くの優秀な人材が輩出されました。

その後、地元に成新学校を設立し、自らも教師として教壇に立ちました。さらに、豊科学校校長として、洋式校舎を建設し、教育改革に貢献。村会議員や県会議員にも選出され、県政にも積極的に関与しました。特に、議員給与増額に反対する演説は「藤森桂谷の味噌なめ演説」として有名です。また、南安曇郡の設置にも尽力するなど、政治家としても重要な役割を果たしました。

さらに、池田町で北山学校を設立し、校長として教育と村人啓蒙に力を注ぎました。その功績は、現在も地元住民に深く記憶されています。

老年期：日本画の近代化への挑戦

1886年、母親の死を機に教壇を離れ、画家として本格的に活動を始めます。多くの文人画を研究する中で、「日本の真景を描いていない」という課題意識を持ち、写生旅行を繰り返し、自然を克明に描いた作品を残しました。国内の美術展で入賞、大日本美術協会評議員、日本美術院会員など、数々の栄誉に輝き、近代日本画の発展に貢献しました。東京で制作中に、絵筆を握ったまま70歳で生涯を閉じました。

まとめ

藤森桂谷は、画家としての卓越した才能に加え、教育者、政治家として、郷土の発展に多大な貢献をしました。教育への情熱、政治への関与、そして日本画の近代化への挑戦。彼の生涯は、時代の変革期を生き抜いた一人の人物像として、現代に示唆に富むものです。現在も、安曇野市には桂谷の功績を称える碑や資料館などが残されており、その生涯と作品は多くの人に知られています。

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