藤永田造船所

藤永田造船所の歴史と概要

藤永田造船所（ふじながたぞうせんじょ）は、かつて大阪市に存在した日本最古の民間造船所であり、重要な造船業の拠点として知られていました。この造船所は、日本海軍の艦艇や鉄道車両を製造する役割を果たしました。元禄2年（1689年）には、堂島に創業しましたが、その後の歴史は移転と成長の繰り返しでした。

沿革

藤永田造船所のルーツは、1689年に大坂堂島船大工町で設立された「兵庫屋」に遡ります。この船小屋から始まった造船所は、1854年に江之子島敷屋町へ移転し、紀州藩の御座船を建造する契機を得ました。開国後も進化を続け、近代的な造船所としての礎を築きました。明治7年（1874年）には西成郡岩崎新田へ移転し、社名を「藤永田造船所」と改めます。

その後も1884年には大正区に移転し、1917年には敷津工場を設立し、近代化を進めました。また、1919年には海軍指定工場となり、初の海軍艦艇である駆逐艦「藤」を受注しました。造船の他にも、1921年からは鉄道車両や鋳鉄管、化学機器の製造にも多角化していきました。

1926年には新たに船町工場を設立し、協同の一環として二つの工場を持つ体制を確立します。太平洋戦争が始まると、駆逐艦の増産に取り組み、1944年には軍需会社に指定されました。従業員数は16,508名に達し、戦争動員の一翼を担いました。戦後は漁船の建造を通じて再出発し、1962年には藤永田エンジニアリングを設立しましたが、後に三井造船に吸収合併されることになります。

社名の由来

「兵庫屋」が「藤永田造船所」に変わった背景には二つの説があります。一つは、渡邊昇大阪府知事が、帆船の試運転に際し、「藤の花」の形状に似ていることから「藤」を付けるよう提案したというものです。もう一つは、親戚の船大工が初の鉄船建造を担当して事故で亡くなり、その死を悼んで「藤」を加えたという説です。

争議と労働運動

藤永田造船所では、大正時代に労働組合が結成され、経営側との争議が発生しました。特に1921年には、不況により30名の鋳造工が解雇され、労働者たちが団体交渉権の確認や解雇手当の要求を行いました。この争議は大阪市内に広がり、最終的には調停により労働者の要求が認められる結果となりました。

影響と遺産

藤永田造船所は、長い歴史の中で日本国内外に数多くの艦船や鉄道車両を提供しました。特に「西の藤永田、東の浦賀」と称されるほど、駆逐艦建造での名声が高く、多くの艦艇が様々な型式で建造されました。戦後も多くの商業船を建造し続け、特にLPG船や貨物船などで国際市場に貢献しました。

1967年には三井造船に吸収合併され、二百七十八年という長い歴史を持つ造船所としての幕を閉じましたが、その影響は現在に至るまで多くの分野に色濃く残っています。再開発された工場敷地では新しいビジネスや文化が芽生え、地域に新しい活気をもたらしています。今でも藤永田の名は、造船業界だけでなく、歴史的な遺産として大切にされています。

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