藪入り (落語)

『藪入り』は、東京落語で人気の高い演目の一つです。この噺は、元々滑稽噺であった『お釜さま』が、初代柳家小せんによって『鼠の懸賞』として改作され、さらに三代目三遊亭金馬が人情噺として再構成したものです。

物語は、明治時代のペスト流行と、それに対する警察の懸賞金付き駆除制度という時代背景から始まります。主人公は、商家に奉公している少年・亀吉です。

物語の舞台は、亀吉が3年ぶりに実家へ帰る前日の夜。父親は、待ちきれない思いから、息子のために鰻や汁粉、天ぷら、刺身、シャモ、寿司など、ありったけの好物を用意しようとします。母親は「そんなに食べきれない」とたしなめますが、父親の興奮は収まりません。さらに、翌日の予定をあれこれと提案し始めます。湯に行かせた後には、本所や浅草に連れて行きたい、品川の海を見せて、羽田の穴守様、川崎大師、横浜、横須賀、江の島、鎌倉、名古屋のシャチホコ、伊勢神宮、京、大阪、讃岐の金毘羅様など、日本各地の名所を巡りたいと夢を膨らませるのです。父親の親心と滑稽さが際立つ場面です。

そして、藪入りの当日。玄関で立派な挨拶をする、見違えるほど成長した息子の姿に、両親は感動で涙を流します。母親がふと、湯屋に出かけた亀吉の荷物を見ると、財布に高額な紙幣が3枚も入っていることに気づきます。奉公先からの小遣いとしてはあまりにも高額なため、両親は「息子が何か悪いことに手を染めたのではないか」と疑念を抱きます。

父親は落ち着いて待とうとしますが、いらだちが募ります。帰宅した亀吉に、「この金は何だ」と問い詰めると、亀吉はカッとなり「人の財布の中を見るなんて、下衆だよ。これだから貧乏人はいやなんだ」と言い返してしまいます。父親は思わず息子を殴り飛ばしますが、母親は父親を制止し、「じゃあ、どうやって手に入れたお金なのさ」と泣きながら問い詰めます。

すると、亀吉は、そのお金は決して卑しい方法で手に入れたものではなく、奉公先で捕まえたネズミを警察に届けた際の懸賞金で、店のご主人に預けていたお金であることを説明します。このお金は、今日の藪入りのために返してもらったものだったのです。両親は安心し、息子の運と行いを褒め称えます。

最後は父親が、亀吉に「これからもご主人を大切にしなさい」と諭し、「これもご主人への忠のおかげだ」と、ネズミの鳴き声と「忠」をかけた地口で締めくくられます。

この噺は、親子の愛情や、勘違いから生まれる騒動、そして最後に明かされる真実が、聴く人を温かい気持ちにさせます。また、当時の社会情勢や人々の暮らしぶりを垣間見ることができ、落語の魅力を存分に味わえる演目と言えるでしょう。

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