虞美人 (宝塚歌劇)

宝塚歌劇『虞美人』：歴史に残る大ヒットミュージカル

『虞美人』は、宝塚歌劇団を代表する歴史的ミュージカル作品の一つです。長與善郎の戯曲『項羽と劉邦』を原作とし、白井鐵造と木村信司という二人の演出家によって異なる魅力で舞台化されました。

白井鐵造版『虞美人』：宝塚歌劇史に輝く金字塔

1951年8月、宝塚大劇場で初演された白井鐵造版『虞美人』は、宝塚歌劇団にとって画期的な作品となりました。当時としては異例となる二幕構成の一本立て作品で、舞台上に本物の馬が登場し、項羽や劉邦といった主要キャストが乗馬する演出は、大きな話題を呼びました。3ヶ月に渡るロングラン公演は、30万人を超える観客を動員し、空前の大ヒットを記録。宝塚ファンのみならず、広く社会に大きな影響を与え、文筆家・坂口安吾もその魅力を高く評価しています。

この作品は、1950年代初頭に宝塚歌劇団を襲ったスターの相次ぐ退団という危機を乗り越えるきっかけともなりました。その後も再演を重ね、延べ345回公演、93万9100人を動員するなど、宝塚歌劇史に燦然と輝く金字塔となりました。

1974年の公演

1974年の公演では、星組と花組合同での上演が実現。宝塚歌劇団60周年記念公演として、連続公演という形がとられました。第60期生の初舞台公演として、大勢の新人スターが参加したことも話題となりました。この公演では、星組公演には『清く正しく美しく』という祝舞が、花組公演には『ゴールデン宝塚60』というショーが併演されました。

木村信司版『虞美人』：新たな息吹を吹き込んだ演出

2010年、木村信司による新演出版『虞美人』が上演されました。新たな脚本と楽曲、そして現代的な演出によって、古典的な物語に新たな息吹が吹き込まれました。この公演は、観客動員数100万人を突破する大成功を収め、花組トップ娘役である桜乃彩音の退団公演としても記憶されています。

あらすじと登場人物

『虞美人』は、中国古代を舞台に、項羽と劉邦の戦いを中心とした物語です。

主な登場人物は以下の通りです。

項羽: 卓越した武勇を持つ将軍だが、人望を失い、徐々に劣勢に陥っていく。
虞姫: 項羽の愛妾であり、絶世の美女。虞美人とも呼ばれる。
劉邦: 項羽の最大のライバル。
呂妃: 劉邦の正妃。
韓信: 劉邦の軍師であり、名将。
殷桃娘: 会稽の郡守の娘。父を項羽に殺害されたことから、劉邦に仕える。
* 王陵: 虞姫に恋心を抱く若者。

白井版のあらすじは、秦の圧政下における民衆の苦しみから始まり、韓信、殷桃娘、項羽、虞姫、劉邦らの複雑な運命が交錯する物語です。王陵による項羽暗殺未遂や、殷桃娘による劉邦暗殺阻止など、様々なドラマが展開され、最終的に項羽と虞姫の悲劇的な最期で幕を閉じます。

楽曲

白井鐵造版では、河崎一朗作曲による「赤いけしの花」が、作品を象徴する楽曲として広く知られています。

スタッフ

両バージョンとも多くのスタッフが関わっており、演出、作曲、振付、舞台装置、衣装、照明、音響など、多方面からの協力によって、この大作は完成しました。

宝塚歌劇史における『虞美人』の意義

『虞美人』は、単なるエンターテイメント作品としてだけでなく、宝塚歌劇団の歴史において重要な位置を占める作品です。初の一本立て作品として、また、幾度にもわたる再演と観客動員の記録から、その人気と影響力の大きさがわかります。白井鐵造版と木村信司版という異なる演出による上演は、『虞美人』という作品が時代を超えて愛され続ける魅力を示しています。

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