蛸芝居

蛸芝居

「蛸芝居」は、上方落語の演目の一つであり、主な演者に6代目笑福亭松鶴や5代目桂文枝などがいる。初代桂文治の作とされ、後世に改作を重ねて現在の形になったと言われている。

あらすじ

舞台は芝居好きの砂糖問屋。主人から番頭、丁稚、女中、乳母に至るまで、家中の誰もが芝居に夢中になっている。朝、店員を起こすために主自ら『三番叟』を踊り出すほどだ。

丁稚の定吉と亀吉も芝居好き。表の掃除を言いつけられると、向かいの路地を花道に見立てて芝居を始める始末。仏壇の掃除中には、位牌を使って芝居を始める。赤ん坊の守りを任されても、気晴らしに芝居を始めてしまう。

ある日、お店番を言いつけられた二人は、「外から入ってくるやつに芝居をさせよう」と企む。そこに現れたのは、魚屋の魚喜。彼もまた芝居好きだった。二人は魚喜に『掛け声』と『ツケ打ち』で芝居をやらせようとする。

すっかり乗せられた魚喜は、鯛の鱗を剥ぎながら芝居を始める。ついには、井戸に落ちた釣瓶を見て、幽霊の芝居を始める。そこへ主がやって来て、犬が荷の中からハマチを咥えて逃げた事を告げる。すると、魚喜は「あ、そぉ、そぉ～じゃぁ～ッ…」とハマチを追いかけて行ってしまう。

正気に戻った主は、定吉に酢蛸に使う酢を買ってくるように命じ、台所でタバコをふかし始める。すると、台所にいた蛸が、芝居の泥棒の真似をして逃げ出そうとする。主は日本刀を持って追いかけるが、蛸に墨を噴きつけられ、鳩尾を突かれて倒れてしまう。蛸は「雉も鳴かずば撃たれやしめえ。明石の浦へ。ちっとも早く、おぉ、そぉじゃ、そぉじゃ～ッ…」と逃げてしまう。

酢を買ってきた定吉が、目を回している主を発見。抱き起こすと、主は「蛸に当てられた…」と訴えるのだった。

その他

「蛸芝居」は、上方落語の芝居噺の代表作である。登場人物すべてが歌舞伎好きという設定に加え、最後に登場する蛸までが芝居の真似ごとをするというナンセンスさが、この演目の面白さである。下座との掛け合いの巧さや歌舞伎の知識に加え、舞踊の要素などが演者に求められる。また、動きの激しさから、演者は袴を着用することが多い。

脚注

この演目は、登場人物の芝居好きが高じて騒動が巻き起こるという、ユーモラスな内容で、観客を飽きさせない展開が魅力である。特に、蛸が歌舞伎の真似をする場面は、この噺のハイライトと言えるだろう。また、演者の力量によって、さらに面白さが引き出される演目でもある。

もう一度検索