蝦夷共和国

蝦夷共和国について

蝦夷共和国（えぞきょうわこく）は、1868年から1869年にかけて、戊辰戦争の末期に旧江戸幕府軍勢力によって北海道の蝦夷地に設立された事実上の政権を指します。具体的には、この政権は榎本武揚を指導者とし、手厚い国際的な支持を背景に持ちながら、自らの政府を形成しました。この政権は通称、蝦夷政権や箱館政権とも呼ばれています。

歴史的経緯

1867年、江戸幕府は徳川慶喜による大政奉還を経て実質的に崩壊し、明治新政府が成立。その中で、蝦夷地への退路を選んだ旧幕府の軍勢は、榎本武揚を艦隊指揮官として派遣しました。1868年8月、海軍副総裁の榎本は4隻の軍艦を率いて蝦夷地の箱館へと向かい、数日後には五稜郭を攻略し、箱館を占領しました。その後、12月15日には蝦夷地全域の平定を祝う祭りを開催し、仮政府の樹立を宣言しました。

榎本は、新政府に対抗するための政策を描き、旧幕臣やその家族を蝦夷地に移住させ、農林漁業や鉱業を興す計画を立てました。しかし、新政府との和解を求めたものの、その試みは拒否され、1869年に新政府の征討軍が派遣され、最終的には榎本らは降伏せざるを得なくなりました。

政治的性格

蝦夷共和国の政治的性格は複雑でした。榎本たちは徳川家の血統を引く者を新たな大将軍として望んだものの、実際には旧幕府による執権制や皇国思想の対立が見られました。特に榎本は、王政復古による政治的動向を批判しつつも、普遍的な政府の理想を求めていました。このように、蝦夷共和国は複数の政治的要素が絡み合う中で存在しました。

呼称と国際的地位

蝦夷共和国としての名称は、元々榎本の周辺によって生まれたものであり、外部からの評価に基づくものでした。初めて「共和国」の名が使われたのは英仏軍艦の艦長が、榎本と会見した際です。彼は、後に著書の中でこれを「共和国」と記述し、以降その名称が広がりました。

外国からは「事実上の政権」として認められ、1868年にはイギリスやフランスからの承認を受けましたが、国際法上の正式な交戦団体としては認められませんでした。これにより、榎本たちは日本国内での権限拡大を図り、統治の権威を確立しました。

制度と内政

蝦夷共和国での政権執行のため、12月15日には役人の選出選挙が行われましたが、実際には旧幕府軍の士官たちが主体となり、住民の参加はありませんでした。主要な役職には榎本武揚が選ばれ、副総裁には松平太郎が任命されました。この選挙では得票数が多数を占めることはなく、複数の意見が分かれる中での選出が行われましたが、形としては選挙制度に基づくものでした。

軍事組織

蝦夷共和国の軍事組織は、陸軍と海軍に分かれていました。旧幕府軍は、軍事顧問としてフランス軍人を招き入れ、その指導のもとで訓練が実施され、組織としても着実な発展を見せました。この時期に、フランス軍からの脱藩者も多く参加し、国内外の影響が色濃く現れました。特に野戦病院の設置や国際法に基づく治療体制が整えられたことは、蝦夷共和国を特異な存在としました。

地元住民との関係

旧幕府軍の負担が増していく中、蝦夷共和国は資金調達に苦慮しました。その結果、住民からの課税や新たな貨幣発行が行われ、地域の反感を招く要因となりました。これらの施策は、結果的に住民との関係を悪化させ、政権への不満を助長しました。

結論

蝦夷共和国は、戊辰戦争の激動の中で短命に終わった政権でありながら、当時の社会情勢や国際的な影響、内部の政治的動向を反映した重要な歴史的事件となりました。現代に至るまで、多くの議論を呼び起こしているこの政権の存在は、日本の明治時代発展の過程において看過できない一章と言えるでしょう。

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