蟲 (江戸川乱歩)

小説『蟲』の概要

江戸川乱歩による中編小説『蟲』は、1929年に『改造』という雑誌に連載されました。本作は、当初『新青年』での発表が予定されていましたが、乱歩が執筆した他の作品の影響や政治的な背景から変更を余儀なくされた経緯があります。作者の独特なスタイルが生かされたこの作品は、かつてないほどの恐怖と心理的な葛藤を描いています。

登場人物

• - 柾木愛造（まさき あいぞう）

本作の主人公。彼は両親の遺した財産を享受しながら、土蔵の二階に籠り続け、社会から隔絶した生活を送る厭人病の高等遊民。困難を抱えた人格が魅力的な反面、自身の欲望と狂気に向かって突き進んでいきます。

• - 木下芙蓉（きのした ふよう）

人気女優であり、本名は木下文子。愛造の幼なじみであり、彼の初恋の相手です。再会を果たすことで、愛造の心に再燃する恋情が物語を進める重要な鍵となります。

• - 池内光太郎（いけうち こうたろう）

愛造の唯一の友人で、性格は彼とは正反対。実は芙蓉の恋人であり、物語の中で複雑な人間関係を形成します。

あらすじ

物語は、厭人病に苦しむ主人公が唯一の友人の紹介で、初恋の相手である女優と再会するところから始まります。彼は彼女に再び恋に落ちますが、彼女の手に自分の手を重ねた時、彼女がその行動に笑い出したことが彼に強いショックと恥をもたらします。この瞬間が愛造にとっての悲劇の始まりであり、彼の中に芽生えた動機が後の惨劇を引き起こすことになります。

再会から数ヶ月、彼は彼女と池内の密会をストーキングし続けます。彼らの親密さを目の当たりにすることで、彼の妄想はますます狂気へと進展し、ついに殺人を決意するまでに至ります。愛造は自分の車をタクシーに見せかけ、芙蓉を拉致してその生を奪います。死体を自宅の土蔵に運ぶ彼ですが、死に対する彼の強い執着は、死体を単なる所有物として捉えることにいります。

計画では死体を古井戸に捨てるつもりだったものの、死体の魅力に取り憑かれ、彼はそれを所有し続けようとします。しかし、死体が蟲に侵されて腐敗する事実に気づいたとき、彼は衝撃に見舞われます。彼は防腐処理を試みますが、素人には無理があり、次第に精神的に追い詰められていくのです。

数日後、周囲の異常に気づいた者が通報し、警察が土蔵の中で二つの死体を発見します。芙蓉の死体は惨たらしく体を切開され、柾木の死体は彼女に執着しながら横たわっていたのです。

映像化

作中の独特な世界観は、2005年にオムニバス映画『乱歩地獄』として映像化されました。監督はカネコアツシが担当し、浅野忠信や緒川たまきがキャストとして参加しています。この映像化により、乱歩の作品の恐怖感と魅力が新たな形で表現されました。

結論

『蟲』は愛と狂気、所有欲と腐敗というテーマを深く掘り下げた作品であり、乱歩ならではの心理描写とダークな面に通じるものがあります。その内容から、作品は単なる小説を超え、時代を超えた普遍的な問いを読者に投げかけるものとして位置づけられます。

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