蠍魔宮〜ブラックアウト

概要

『蠍魔宮〜ブラックアウト』（原題: Blackout）は、ドイツ出身のヘヴィメタル／ハードロックバンド、スコーピオンズが1982年にリリースした、彼らにとって8枚目のスタジオレコーディング作品です。バンドのキャリアにおいて極めて重要な位置を占める本作は、商業的な成功と音楽的な評価の両面で大きな転換点となりました。

制作背景とアートワーク

本作の制作は、バンドにとって大きな試練からの回復期にあたります。レコーディング開始前の1981年、ヴォーカリストであるクラウス・マイネは深刻な声帯の疾患に見舞われ、一時はその歌唱キャリアの継続すら危ぶまれる状況となりました。しかし、彼は懸命な治療とリハビリを経て奇跡的な回復を遂げ、本作で再びパワフルな歌声を披露しました。このドラマチックな復帰は、アルバムに込められたエネルギーに一層の深みを与えています。

アルバムジャケットのアートワークには、オーストリアの画家ゴットフリード・ヘルンヴァインによる絵画が採用されています。包帯で顔を覆った人物がフォークを眼窩に突き立てようとする、挑発的で印象的なビジュアルは、作品の持つ硬質かつダークな雰囲気を視覚的に表現しており、聴く者に強いインパクトを与えました。

商業的成功と評価

『ブラックアウト』は、スコーピオンズに世界的な成功をもたらした作品群の中でも特に重要な位置を占めます。特にアメリカ合衆国においては、バンド史上初めてBillboard 200アルバムチャートでトップ10圏内（最高位10位）にランクインするという快挙を達成しました。この成功により、スコーピオンズはアメリカにおける人気を決定的なものとし、その後のアリーナクラスでの活動への道を切り開きました。

アルバムからは、「No One Like You（邦題：官能の夜）」がシングルカットされ、こちらも全米シングルチャートで65位を記録するヒットとなりました。この楽曲は、メロディアスでありながら力強いスコーピオンズの音楽性を象徴する一曲として、現在でも高い人気を誇っています。アルバム全体を通して聴かれる、ルドルフ・シェンカーとマティアス・ヤプスによるツインギターの妙技と、クラウス・マイネの復調したヴォーカルが織りなすサウンドは、多くのロックファンを魅了しました。

50周年記念盤

オリジナルリリースから長い年月を経た2015年12月2日には、バンドの結成50周年を記念した『50thアニバーサリー・デラックス・エディション』が発売されました。この記念盤は、オリジナルマスターテープからの新規リマスター音源を収録したCDに加え、貴重な未発表デモ音源（「Blackout」のデモ、未発表曲「Running for the Plane」、「Sugar Man」、「Searching for the Rainbow」のデモなど）をボーナストラックとして追加収録しています。さらに、当時のミュージック・ビデオやドキュメンタリー映像、そして1983年12月17日にドイツのドルトムントで行われた伝説的なライヴイベント『ロック・ポップ・イン・コンサート：スペシャル・ヘヴィ・メタル・ナイト』でのパフォーマンスを収めたDVDが付属しており、当時のバンドの勢いや作品の背景を深く知ることができる貴重な内容となっています。

収録曲

オリジナル盤には以下の9曲が収録されています（全作曲：ルドルフ・シェンカー、特記を除く）。

ブラックアウト - "Blackout" (3:49)
作詞：クラウス・マイネ、ハーマン・ラレベル、ソンヤ・キテルセン
キャント・リヴ・ウィズアウト・ユー - "Can't Live Without You" (3:47)
作詞：クラウス・マイネ
官能の夜 - "No One Like You" (3:57)
作詞：クラウス・マイネ
ユー・ギヴ・ミー・オール・アイ・ニード - "You Give Me All I Need" (3:39)
作詞：ハーマン・ラレベル
NOW! - "Now!" (2:35)
作詞：クラウス・マイネ、ハーマン・ラレベル
ダイナマイト - "Dynamite" (4:12)
作詞：クラウス・マイネ、ハーマン・ラレベル
アリゾナ - "Arizona" (3:56)
作詞：ハーマン・ラレベル
チャイナ・ホワイト - "China White" (6:59)
作詞：クラウス・マイネ
静寂の煙 - "When the Smoke Is Going Down" (3:51)
作詞：クラウス・マイネ

その他のエピソード

アルバムタイトル曲「ブラックアウト」は、後年、他のアーティストによってカバーされています。日本のギタリスト屍忌蛇が企画したヘヴィメタル・カヴァーアルバム『STAND PROUD! ALL FOR HEAVY METAL』（1998年）では、ヴォーカルに小野正利を迎えてこの曲が取り上げられました。また、ジューダス・プリーストのロブ・ハルフォードによるソロプロジェクト、ハルフォードのハノーファー公演では、スコーピオンズのルドルフ・シェンカーをゲストに迎えて演奏され、その模様はライヴアルバム『ライヴ・インサレクション』（2001年）の日本盤ボーナストラックとして収録されています。

参加ミュージシャン

本作のレコーディングに参加した主要メンバーは以下の通りです。

クラウス・マイネ - ボーカル
ルドルフ・シェンカー - ギター
マティアス・ヤプス - ギター
フランシス・ブッホルツ - ベース
* ハーマン・ラレベル - ドラムス

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