血の日曜日事件 (1965年)

1965年 血の日曜日事件：公民権運動の転換点

1965年3月7日、アメリカ合衆国アラバマ州セルマで、公民権運動における重要な転換点となる「血の日曜日事件」が発生しました。この事件は、公民権運動家たちの平和的なデモ行進が、州兵と地元警察によって暴力的に阻止された悲劇です。

事件の背景

1960年代初頭、セルマではアフリカ系アメリカ人（黒人）に対する組織的な投票妨害が行われていました。人口の半数近くを占める黒人住民は、差別的な制度や脅迫によって有権者登録を阻まれ、政治的な発言権を奪われていました。こうした状況を打破するため、公民権運動家たちは、投票権獲得を目指したデモや抗議活動を活発化させていました。

事件の直前、2月18日には、公民権運動のデモに参加していた黒人男性ジミー・リー・ジャクソンが、警察官の発砲によって重傷を負い、8日後に死亡するという痛ましい事件が起きていました。この事件は、黒人コミュニティの怒りと悲しみを増幅させ、3月7日のデモ行進へと繋がっていきます。

事件の経過

3月7日、約600人の公民権運動家たちが、セルマから州都モンゴメリーを目指して行進を開始しました。彼らは、ジョージ・ウォレス州知事に対し、黒人住民の投票権を保護するよう求め、合衆国憲法で保障された権利を訴えることを目的としていました。

しかし、ウォレス知事はデモ行進を「公共の秩序を乱す」ものとして非難し、あらゆる手段を用いて阻止するよう指示しました。州兵とダラス郡保安官は、エドモンド・ペタス橋でデモ隊を待ち構え、催涙ガスや警棒、鞭などを用いて容赦なく攻撃しました。

報道機関が取材する中、無抵抗のデモ参加者たちは次々と倒れ、血を流しました。アメリア・ボイントン・ロビンソンは催涙ガスと殴打で瀕死の重傷を負い、その写真は世界中の新聞の一面を飾りました。この凄惨な光景はテレビを通じて全米に放送され、多くの人々に衝撃を与えました。

事件の結果と影響

血の日曜日事件は、公民権運動に大きな転換点をもたらしました。テレビで放映された暴力的な映像は、白人層を含む多くの人々に衝撃を与え、公民権運動への共感を広げました。

事件後、世論の高まりを受けて、リンドン・ジョンソン大統領は投票権法の制定を強く推進しました。その結果、1965年8月には投票権法が成立し、黒人に対する投票差別が法的に禁止されました。この法律は、アフリカ系アメリカ人の政治参加を促進し、公民権運動の大きな成果となりました。

また、デモに参加し頭蓋骨骨折の重傷を負ったジョン・ルイスは、後に政界に進出し、1987年から2020年までジョージア州選出の下院議員として活躍しました。彼は、公民権運動の精神を受け継ぎ、人権擁護と社会正義のために生涯を捧げました。

血の日曜日事件は、アメリカの歴史における暗い一面であると同時に、公民権運動の勝利に向けた重要な一歩となりました。この事件は、人種差別の根深さと、それを克服するための人々の勇気と努力を物語っています。そして、自由と平等を求める戦いは、今もなお続いていることを私たちに教えてくれます。

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