行商専用列車

行商専用列車とは

行商専用列車とは、その名の通り、行商人のために特別に運行されていた列車のことを指します。ここでは、その成り立ちから、最盛期、そして廃止に至るまでの歴史を詳しく見ていきましょう。

成り立ち

関東大震災以前は、行商人を専門に輸送する列車は一般的ではありませんでした。しかし、震災後の物資不足をきっかけに、千葉県から東京都への農家による行商が活発化。野菜や餅などの需要に応えるため、京成電鉄が「野菜行商専用列車」、通称「なっぱ電車」を運行開始しました。京成では正式には「嵩高荷物専用車」と称し、「京成行商組合」の加入者限定で、定期手回り品切符での利用でした。

昭和10年頃には、常磐線の列車にも1日に500人もの行商人が利用するようになり、大きな荷物が一般客の迷惑となることが問題視されました。そこで、上野駅に到着する3本の列車に限り、行商隊専用の客車を2両増結する措置が取られました。

これらの行商人は、商品を背負って運ぶことから「カツギ屋」とも呼ばれ、京成だけでなく国鉄でも見られました。常磐線（神立駅以南）や成田線には、出荷組合員専用の車両が設けられていたこともあります。現在でも、湖北駅-下総松崎駅間のホームには、旧行商組合が設置した荷物置き台が現存しており、湖北駅のものは博物館に保存されています。また、常磐線土浦駅のホームにも、2021年11月まで行商台が残っていました。

現状

私鉄の行商専用列車は、地方私鉄の廃線や合理化により、規模が縮小。京成の「なっぱ列車」も例外ではなく、1982年2月14日からは、京成上野行・西馬込行の最終車両1両のみが行商専用車となりました。車両には、窓を開けて板を吊り下げるか、ステッカーを貼って表示されていました。

しかし、行商人の減少と車内混雑を緩和するため、1998年10月1日には押上方面行きの専用車が廃止。上野方面のみの設定となり、2013年3月29日に完全廃止となりました。廃止直前の行商車両は、普通列車（732列車）芝山千代田発（7時46分発）京成上野行（9時52分着）で、平日のみ運行。駅のホームには、「当駅○時○○発（平日）普通上野行の最後部一両は 行商専用車です」との但し書きがありました。

2020年3月13日には、近畿日本鉄道の鮮魚列車が廃止。行商人専用の貸し切り列車は姿を消し、翌週からは急行列車に専用車両を連結する形で運行されました。

しかし、2021年3月からは、東武鉄道が東上線で野菜輸送の実証実験を開始。同時期に、西武鉄道、京浜急行電鉄、JR東日本、JR西日本などでも、試験的な農産物輸送が行われるようになりました。特にJR2社は、北陸新幹線で農産物や鮮魚を輸送していますが、行商人の乗車はありません。

その他

地方私鉄では、気動車の端に「鮮魚台」と呼ばれるカゴを設置し、乗客と共に鮮魚を輸送していました。また、戦時中には、東京都電車が築地始発の魚屋さん専用電車を運行。戦後、専用電車は廃止されましたが、朝の電車には魚を仕入れた仲買人が多く乗り込み、臭気などが問題となることもありました。

行商専用列車は、時代の変化と共に姿を消しましたが、その歴史は、日本の食文化と物流の変遷を物語る貴重な記録と言えるでしょう。そして現在、新たな輸送方法が模索されていることは、かつての行商専用列車の精神が形を変えて受け継がれている証拠なのかもしれません。

関連項目

* 鮮魚列車

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