行商

行商（ぎょうしょう）とは

行商とは、特定の店舗を持たず、商品を顧客がいる場所へ運び販売する小売業のことです。商品をただ配達するのではなく、顧客がいそうな地域を巡回しながら販売するのが特徴です。定期的に開かれる市場での販売や、特定の地域を巡回してサービスを提供する形態（羅宇屋、包丁研ぎなど）も広義の行商に含まれます。卸売業は通常、行商とは呼ばれません。

行商の形態

行商の範囲は、商品の種類によって異なります。生鮮食品は都市近郊で販売されることが多いですが、保存が可能な商品は都市から都市へと移動して販売されることもあります。

運搬手段は時代とともに変化してきました。かつては天秤棒を担いでいましたが、現代では自転車、オートバイ、軽トラックなどが使われます。販売場所は路上、空き地、戸別訪問など様々です。

行商の歴史と世界

商売の原点ともいえる行商は、商品が豊富な場所からそうでない場所へ商品を融通する役割を果たしてきました。

近年では、自動車に販売設備を設けた移動販売も増えていますが、これらは一般的に行商とは呼ばれません。また、屋台も広義には行商に含まれますが、通常は区別されます。

世界各地にも同様の業態が存在し、都市部の市場で仕入れた商品を村落で販売する商人の例は枚挙にいとまがありません。シルクロードを行き交った商人の中には、命がけで物資を運んだ者もいました。

貿易の初期段階も、行商人が都市間を巡回することで担われていました。その後の交通・輸送技術の発達により、貿易は組織化され、巨大な交易網へと発展していきました。

日本の行商

中世

日本では中世から行商人が存在し、「物売」や女性の行商人である「販女」などがいました。戦国時代から江戸時代にかけては、長距離の行商人が各地を結ぶ通商路を確立しました。行商人は、生活必需品や軍事転用可能な物資を運搬し、各国の通行許可を得ていました。薬や織物などが主な商品であり、中には忍びが情報収集や資金獲得のために行商を行うこともありました。

近世

江戸時代には、都市の発達に伴い行商が発展しました。天秤棒を担いだ「棒手売」や「背負商人」などが、魚介類、豆腐、医薬品、家具など様々な商品を販売しました。生鮮食品の保存が難しかったため、行商や朝市が重要な販売形態でした。また、寿司や蕎麦などの料理も屋台で販売されました。越中国では、配置薬の販売方法が行商によって広まりました。

商品作物の普及とともに、農間余業として行商を行う人も現れました。その後、輸送技術や保存技術の発達により、店舗を構える業態が増えましたが、牛乳の行商など新しい種類の行商も登場しました。

現代

現代でも、山間部や離島などの地域では、食料品や生活雑貨の行商が残っています。行商を行うには、都道府県の条例に基づき営業の届け出が必要です。営業品目には、魚介類、肉類、菓子、パン、弁当などがあります。ただし、地域によって規制が異なり、東京都では肉類の行商が認められていません。農産物やその単純加工品は、届け出が不要な場合が多いです。古物商の行商には、警察の許可が必要です。かつては鉄道に行商専用車両がありましたが、現在は大幅に縮小されています。

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