街と、その不確かな壁

『街と、その不確かな壁』の概要

村上春樹の代表作の一つである中編小説『街と、その不確かな壁』は、1980年に『文學界』9月号に発表されました。この作品は、村上の実質的な3作目であり、後の『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』へと繋がる習作的な役割を果たしています。しかし、村上の意向により、この作品は単行本や全集には収録されておらず希少な存在です。彼は、1973年の『ピンボール』が芥川賞候補に挙がったことで、その受賞第1作としての意識があったものの、文体は前二作と異なり生硬で難解なものとなり、結末にも納得できなかったと語っています。村上自身は後に、この作品を「失敗」と感じ、「書くべきではなかった」と述べました。

あらすじ

物語は、18歳の夏の夕暮れに始まります。主人公である「僕」は、自らの影である「君」から、高い壁に囲まれた「街」の話を聞くことになります。「君」とは、実際にはこの壁の内側に存在する真実の彼女であり、その影の存在に過ぎないと言います。その後、「君」は悲しくも若くして亡くなり、「僕」は彼女が残した言葉を頼りにその「街」に足を踏み入れることにします。

「街」に入った「僕」は、予言者となるべく古い夢を探求し始め、次第に本当の「君」と出会い、親しい関係を築いていきます。しかし、影を失った彼女と心を通わせることができない現実に直面し、言葉を交わすことや身体を重ねても、本質的な理解には届かないことに気付かされます。

やがて、「僕」は「古い夢」を解放することに成功し、その悲しみに向き合います。その経験を経た「僕」は、失われた影を取り戻すため、「街」を出る決心をします。彼は「街」を取り巻く壁を振り切り、現実世界に帰る道を選び、そこでは自分の影と共に生きることを選ばざるを得ません。

登場人物

• - 僕: 物語の主人公であり語り手。「街」に足を踏み入れ、本当の「君」を見つけようと奮闘する血の通ったキャラクターです。
• - 君: 物語のもう一人の中心であり、16歳の時に「僕」と出会い、その後若くして亡くなります。「街」では図書館の司書をしており、自身の影についての記憶は持っていませんが、「僕」の手助けをします。
• - 僕の影: 「僕」が「街」に入る際、引き離された存在。門番小屋で暮らしており、弱く暗い心を象徴しています。
• - 門番: 「街」への出入りを管理し、影の世話をする役目を持っています。
• - 大佐: 「僕」の隣人であり、退役軍人です。
• - 獣たち: 「街」に住む一角獣で、外界との唯一の接触を許された存在です。

このように、『街と、その不確かな壁』は複雑なテーマと人間関係を描いた物語であり、村上春樹作品の中でも独特の位置を占めています。

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