表現主義 (建築)

建築における表現主義

建築における表現主義は、20世紀初頭にヨーロッパで生まれた建築様式であり、多分野にわたる表現主義運動の一環として、1910年頃にドイツ語圏や北欧で始まりました。同時期のオランダでは、アムステルダム派と呼ばれる運動が展開されました。

表現主義建築は、初期モダニズム建築の特徴である材料の革新や社会の大衆化に伴う斬新なデザインを追求しました。レンガ、鉄、ガラスなどの大量生産が可能になったことで、新たな技術的可能性に着想を得て、独自の表現を生み出したのです。この動きは、映画などの視覚芸術におけるドイツ表現主義運動と並行して展開され、相互に影響を与え合いました。

表現主義建築の歴史

表現主義建築の歴史において、特に重要な出来事としては、以下のようなものが挙げられます。

1914年：ケルンで開催された第1回ドイツ工作連盟展
1919年：ハンス・ペルツィヒ設計のベルリン大劇場（Großes Schauspielhaus）の落成とその後の上演活動
ブルーノ・タウトを中心とした建築家たちによる往復書簡「ガラスの鎖」（Gläserne Kette）
オランダのアムステルダム派の運動

これらの出来事は、表現主義建築の発展に大きく貢献しました。また、表現主義建築のシンボルとされるエーリヒ・メンデルゾーン作のアインシュタイン塔（1921年、ポツダム）や、北ドイツ表現主義建築を代表するフリッツ・ヘーガーのチリハウス（1924年、ハンブルク）などの主要な建築物が、この時代に建てられました。

当時のドイツは第一次世界大戦敗戦後の経済状況が非常に厳しく、建築の依頼は限られていました。そのため、設計されたものの実現しなかった作品や、短期間のみ展示された建物が数多く存在します。ブルーノ・タウトのアルプス建築（Alpine Architektur、1917年）やヘルマン・フィンステルリン（Hermann Finsterlin）の形式遊び（Formspiel、1924年）のように、建築学史において重要な位置を占めるものの、実際に建てられなかった作品も少なくありません。

表現主義から新即物主義へ

1925年までには、タウト、メンデルゾーン、ペルツィヒといった主要な建築家たちは、視覚芸術における表現主義の芸術家たちとともに、新即物主義（Neue Sachlichkeit）の運動へと移行しました。新即物主義は、より実際的で実務的な方法論に基づいたものであり、表現主義初期の実験精神を捨て去るほどの大きな方向転換でした。この結果、表現主義の作風を維持したのはハンス・シャロウンなどの少数派に限られました。

1933年にナチス党が政権を掌握すると、表現主義は「退廃芸術」とみなされ、非合法化されました。これにより、表現主義建築の運動自体は終息に向かいました。

主要な建築物

以下に、表現主義建築の主要な作品をいくつか紹介します。

ベルリン大劇場（1919年、現存せず）
アインシュタイン・タワー（エーリヒ・メンデルゾーン、1921年）
チリハウス（フリッツ・ヘーガー、1924年）
ヘキスト染色工場（ペーター・ベーレンス、1920年-1925年）
グルントヴィークス教会（イェンセン・クリント、1921年-1940年）

これらの建築物は、表現主義建築の独特なデザインや理念を体現しており、現代の建築にも大きな影響を与えています。

関連項目

建築
建築史
モダニズム建築
* ハンブルクの倉庫街とチリハウスを含む商館街 - 表現主義建築が並ぶ商館街を含む世界遺産。

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