袁隆平

袁 隆平（えん りゅうへい）は、中華人民共和国の傑出した農学者です。1930年9月7日に生まれ、2021年5月22日にその生涯を閉じました。特に、高い収穫量を誇るハイブリッド米（交雑米）の研究と世界への普及における貢献は計り知れず、「ハイブリッドイネの父」として広く認識されています。

北京で生を受けた袁隆平は、5人兄弟の次男として育ちました。重慶や贛江、博学の中学校で学び、1949年8月には重慶相輝学院農学部に入学して遺伝育種学を専攻しました。その後の院系調整を経て、1952年に西南農学院へ移り、翌1953年に卒業。

卒業後は、湖南省安江農学校で植物遺伝育種学の教師として教鞭を執り、サツマイモやトマトといった作物の育種や栽培研究に従事しました。当時の中国は、大躍進政策による深刻な飢饉に見舞われており、この悲惨な状況を目の当たりにしたことが、袁隆平に食糧問題解決への強い使命感と研究の原動力をもたらしました。

飢饉への衝撃から、彼は特にコメの増産に着目。1964年からは、当時の常識を覆すハイブリッドイネの実用化に向けた研究に本格的に着手しました。この研究は困難を極めましたが、約9年間の粘り強い努力の結果、1973年には実用可能な3種類の異なる交雑パターンを確立することに成功します。中でも、生産現場で大規模な応用が可能な品種として選ばれた「南優2号」は、画期的な成果でした。

「南優2号」の成功により、袁隆平は中国国内で高く評価され、1981年には中国初の国家特等発明賞を受賞しました。しかし、彼はその功績に満足することなく、さらなる高みを目指しました。国家の重要プロジェクトの主任研究員として研究を指導し、度重なる試行錯誤を経て、1995年にはそれまでの理論を発展させた新たなハイブリッドイネの理論と技術の開発に成功します。これにより、従来の品種と比較して収穫量の大幅な増加と品質の向上を同時に実現しました。

1996年には、さらに収穫量を高めるためのスーパーライス交配計画を推進するなど、彼の挑戦は続きました。袁隆平の長年の研究と尽力により、中国は世界最大のコメ生産国となるまでに発展しました。その技術は中国国内に留まらず、同じく食糧問題を抱えるアジアやアフリカ諸国にも広まり、世界の農業と食糧安全保障に多大な貢献をしました。

その功績を称え、1999年には小惑星8117が「袁隆平星」と命名される栄誉を受けました。また、2006年には中国の農業分野において初めてアメリカ科学アカデミーの会員に選ばれています。国際的な受賞も数多く、2011年にはマレーシア元首相マハティール・ビン・モハマド氏によって授与されたマハティール科学賞を受賞するなど、その影響力は世界中に及びました。

2021年5月22日、湖南省長沙市で90歳（中国国内では91歳と報道）で逝去しました。

袁隆平は、その生涯を捧げたハイブリッド米研究を通じて、多くの人々の飢えを救い、世界の食糧問題解決に貢献した偉大な科学者として、後世にその名を刻んでいます。

主な受賞歴

1987年11月：ユネスコ科学賞
1996年5月：日経アジア賞科学技術部門
2001年：国家最高科学技術賞
2001年8月：マグサイサイ賞
2004年：感動中国年度人物
2004年：世界食糧賞
2004年5月：ウルフ賞農業部門
2010年：食の新潟国際賞・佐藤藤三郎特別賞
2011年：マハティール科学賞（マレーシア）
2012年：孔子平和賞
2016年：世界文明賞人類の持続発展部門（中国）
2018年12月：未来科学大賞（中国）
2019年9月：共和国勲章

関連項目

ノーマン・ボーローグ（「緑の革命の父」として知られる農業科学者）
* 新城長有（ハイブリッド米研究に関わった日本の育種学者）

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