袴田武史

袴田 武史（はかまだ たけし）

日本の宇宙開発分野を牽引する起業家、技術者。
株式会社ispaceのファウンダーであり、代表取締役CEOを務める。民間による月面探査や資源開発を目指す革新的な事業を展開している。

生い立ちと教育

1979年、東京都に生まれる。銀行員であった父の仕事の関係で、幼少期から思春期にかけて転居を経験し、入間市立藤沢中学校、高松市立紫雲中学校で学んだ。その後、城西大学付属川越高等学校に進学し、卒業を迎える。

宇宙への強い憧れを抱いていた袴田氏は、東京工業大学への進学を目指したが、二度にわたる不合格を経験する。一度は上智大学理工学部機械工学科に進むものの、宇宙開発に携わるという夢を諦めきれず、再び大学受験に挑む。その結果、2004年に名古屋大学工学部機械・航空工学科を卒業した。

さらに専門的な知識を深めるため、アメリカ合衆国へ留学。2006年にはジョージア工科大学大学院を修了し、航空宇宙システムの概念設計に関する研究成果により、航空宇宙工学の修士号を取得した。この間の学びが、後の宇宙開発事業の基礎を築くこととなる。

キャリアの初期と宇宙への回帰

大学院修了後、2006年に外資系経営コンサルティングファームであるマサイ・ジャパン（後にエイミングジャパンと改称）に入社。コンサルタントとしてビジネスの現場で多岐にわたる経験を積んだ。しかし、心の中に秘めていた宇宙への情熱が消えることはなかった。

転機が訪れたのは2010年。ホワイトレーベルスペース・ジャパンを設立し、代表社員に就任する。これは、米Googleが主催する月面無人探査の国際レース「Google Lunar XPRIZE」に日本から挑戦するためのチーム「HAKUTO」を運営する組織であった。袴田氏はチームHAKUTOのリーダーとして、日本の技術力と開発能力を結集し、月面探査ローバーの開発を推進した。

ispaceの設立と事業拡大

HAKUTOの活動を通じて培った技術、経験、そして宇宙開発への強い信念を基に、袴田氏は2013年に株式会社ispaceを設立した。HAKUTOはこのispaceの中核事業へと発展し、袴田氏は代表取締役に就任。「Expand our planet. Expand our future. 〜地球と人類の生活圏を宇宙に広げ、持続性のある世界へ〜」をビジョンに掲げ、月面輸送サービスや月面データサービスといった商業月面探査事業の確立を目指した。

事業推進にあたり、多くの企業との連携を深めた。2019年には、開発した小型月面探査車の試作機をアメリカ合衆国国立航空宇宙博物館に寄贈し、日本の民間宇宙技術を世界に示した。同年からは、住友商事、スズキ、シチズン時計といった国内の主要企業からの出資や技術協力を得て、月面着陸船やローバーの開発・実証を加速させた。

そして、ispaceは民間宇宙開発企業として資金調達を重ね、事業基盤を強化。2023年には、その革新性と将来性が評価され、東京証券取引所グロース市場への上場を果たした。これは、日本の宇宙ビジネスにおいて歴史的な出来事であり、民間による宇宙利用拡大への期待を一層高めるものとなった。

著書

自身の経験やHAKUTOでの挑戦について、著書『HAKUTO、月面を走れ』（祥伝社、2016年）に記している。この書籍は、月を目指す熱意と、困難に立ち向かう姿勢を伝えている。

袴田武史氏は、宇宙への純粋な情熱と、それをビジネスとして実現する強い意志によって、日本の民間宇宙開発の新たな道を切り拓いている。彼の挑戦は、人類の活動領域を地球外へ拡大し、持続可能な未来を創造するという壮大なビジョンに向けた、重要な一歩と言えるだろう。

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