裁判所書記官

裁判所書記官は、裁判所において裁判記録や調書の作成・保管を主な職務とする裁判所職員です。裁判官の判断や指揮を除く、裁判事務全般の中核を担います。

概要

裁判所書記官が作成する調書は、法廷での出来事を公的に証明する唯一の文書であり、非常に強い効力を持ちます。その役割は裁判所法で定められており、具体的な職務は民事訴訟法や刑事訴訟法に規定されています。

裁判所書記官には、裁判手続き・記録の「公証者」としての役割と、裁判官の「補助者」としての役割があります。後者の役割には、当事者や弁護士、検察官との連絡調整、裁判所内外の関係者との折衝などが含まれます。近年、司法制度改革により、裁判官の権限の一部が書記官に移管され、その重要性は増しています。例えば、民事訴訟における督促手続きなどが挙げられます。ただし、これらは裁判官の判断を経る可能性があるため、司法補助官としての機能も有しています。

裁判所書記官の職務は、裁判の円滑な進行を支える上で不可欠であり、高度な法律知識が求められます。そのため、裁判所事務官等として採用された後、裁判所職員総合研修所での研修を経て、初めて資格を得ることができます。

任官

裁判所書記官になるには、まず裁判所事務官として採用される必要があります。その後、裁判所職員総合研修所の書記官養成課程に入所し、試験に合格する必要があります。研修期間は、法学部卒業者向けの第一部が約1年、それ以外の方が対象の第二部が約1年半です。研修を修了すると、全国の裁判所に裁判所書記官として任官します。

書記官としてのキャリアパス以外にも、試験に合格することで、簡易裁判所判事や執行官、副検事といった道も開かれています。研修施設である裁判所職員総合研修所は、埼玉県和光市に所在しています。

職務

裁判所書記官の職務は多岐にわたります。裁判所法においては、以下の3点が規定されています。

1. 裁判所の事件に関する記録その他の書類の作成及び保管
2. 裁判官の命令による法令や判例の調査補助
3. 口述の書取等に関して裁判官の命令が不当な場合、意見を付記すること

民事訴訟においては、調書・記録の作成、訴訟費用額の算定、送達事務、支払督促の発付、執行文の付与、物件明細書や配当表の作成、事件の進行管理などを行います。刑事訴訟では、調書・記録の作成、送達事務、調書判決の作成、被告人への補償額計算、事件の進行管理などを行います。

服務と懲戒

裁判所書記官の服務については、国家公務員法および国家公務員倫理法が準用されます。懲戒についても同様に、国家公務員法に基づく懲戒が適用されます。

大法廷首席書記官等

「大法廷首席書記官等に関する規則」により、裁判所書記官の中から、大法廷首席書記官や小法廷首席書記官、訟廷首席書記官などが任命されます。これらの役職は、裁判所書記官の執務を指導監督し、訟廷事務を統括する役割を担います。それぞれの役職には、最高裁判所や高等裁判所に置かれるものや、各下級裁判所に置かれるものがあります。

例えば、大法廷首席書記官は最高裁判所のみに置かれ、裁判所書記官の一般執務を指導監督し、訟廷事務を統括します。小法廷首席書記官は、各小法廷に配置された裁判所書記官を指導監督します。首席書記官は、各下級裁判所に置かれ、民事、刑事、家事、少年と分かれることもあります。知的財産高等裁判所首席書記官は、知的財産高等裁判所に置かれます。訟廷管理官は、裁判所速記官を指導監督し、訟廷事務を補佐します。

その他

予納郵券や郵送費用の管理も、裁判所書記官の重要な業務の一つです。各裁判所には、最高裁判所が指定する裁判所書記官が責任者として、これらの管理を行います。また、裁判所書記官の中には、弁護士に転身する人もいます。

歴史

かつて、書記は手書きで書類を作成していたため、達筆な者が採用されていました。画家である棟方志功も、青森地裁で書記を務めていたことがあります。

裁判所書記官は、裁判の円滑な運営を支える、専門性の高い職業です。その職務は多岐にわたり、裁判の公正さと効率性を維持する上で、非常に重要な役割を担っています。

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