装飾付大刀

装飾付大刀（そうしょくつきたち）とは

装飾付大刀とは、日本の古墳時代後期（6世紀から7世紀）に製作された直刀（大刀）の一種で、金、銀、または金銅製の外装（刀[[剣]]装具・拵）が施されたものを指します。「飾大刀（かざりたち）」とも呼ばれ、儀仗用として用いられたと考えられています。

名称について

「装飾付大刀」という用語は、主に考古学、特に古墳時代研究の分野で使用されます。刀[[剣]]の「装飾」は、柄や鞘といった基本的な部材だけでなく、鍔や責金具などの小さな部品、さらには文様などの意匠まで含むため、古墳時代前期から中期にかけての木製や鹿角製の装具を付けた直刀も広義には「装飾付」と言えます。しかし、現代の古墳時代研究では、金属装飾を施した大刀の登場が後期を特徴づける重要な要素と考えられており、中期以前の有機質装具との区別のため、「外装に金、銀、金銅などの装飾的な金属を用いた大刀」に対して「装飾付大刀」という語を使用しています。

また、「飾大刀」という言葉は、平安時代以降に現れる太刀（日本刀）の儀仗刀に対しても用いられますが、これらは「太刀」、奈良時代以前の上古刀は「大刀」と漢字表記を区別することで区別されます。

弥生時代における直刀の出現

日本における直刀の出現は、弥生時代後期中葉に遡ります。墳丘墓などの遺跡から、主に西日本で出土しており、茎の尻に鉄製の環が付いた「素環頭大刀」や、環が付かないものが見つかっています。これらの多くは中国大陸（漢）からの舶来品と考えられています。

古墳時代前期・中期

古墳時代に入ると、直刀は国内での生産が可能となり、全国的に普及しました。各地の古墳や遺跡から出土するようになりますが、古墳時代前期から中期（3世紀後半から5世紀末）の刀[[剣]]装具は、木製または木製と鹿角製を組み合わせたものが主流でした。金属製の部品の使用例はほとんど見られませんでした。

古墳時代中期の刀装具としては、日本列島で独自に発展した、柄頭（把頭）が逆三角形（楔形）を呈する「楔形柄頭大刀」や、鹿角製の刀[[剣]]装具が主流でした。しかし、この時期には後の装飾付大刀に引き継がれる「頭椎」や「円頭」といった形態の木製装具も出現し始めていたことが、奈良県天理市布留遺跡の調査などで確認されています。また、大陸から伝わった素環頭大刀などの環頭大刀も引き続き存在していました。

古墳時代後期・装飾付大刀の登場

古墳時代後期（6世紀）に入ると、帯金具や馬具の装飾技術である金アマルガム法が、大刀の装具にも応用されるようになりました。これにより、柄や鞘などの木製部材の上に、金メッキを施した銅板を巻き付ける金銅装や、金装、銀装といった金属装飾を施した、光り輝く大刀が数多く現れました。

環頭大刀にも、環の内側に龍や鳳凰をデザインした「単鳳・単龍環頭大刀」や「双鳳・双龍環頭大刀」といったバリエーションが登場しました。これに伴い、中期まで主流だった鹿角製の装具は急速に衰退しました。これらの装飾付大刀は、地域の有力な支配者層の権威を示す威信財として所有され、各地の古墳に副葬されました。

装飾付大刀の種類

装飾付大刀には、様々な種類が存在します。

環頭大刀（かんとうたち）

柄の先端である柄頭に円環（環頭）が付いたもので、中国大陸に起源を持ちます。

素環頭大刀（そかんとうのたち）: 環頭の内側に装飾がない、最も初期の形態です。
三葉環頭大刀（さんようかんとうのたち）: 環頭の内側に三葉文様が配されています。
三累環頭大刀（さんるいかんとうのたち）: 環が3つのC字形の輪の組み合わせで構成されています。
単龍・単鳳環頭大刀（たんりゅう・たんほうかんとうのたち）: 環頭の内側に1体の龍または鳳凰が配されています。
双龍・双鳳環頭大刀（そうりゅう・そうほうかんとうのたち）: 環頭の内側に2体の龍または鳳凰が配され、互いに玉を咥えあうようにデザインされています。
獅噛環頭大刀（しがみかんとうのたち）: 環頭の内側に、正面を向いた獅子のような獣面が、環頭に噛みつくように配されています。

倭風大刀（わふうのたち）

古墳時代中期からの系統を受け継ぐものです。

楔形柄頭大刀（くさびがたつかがしらのたち）: 柄頭が逆三角形（楔形）で、刀身の刃部側に突出した形態です。最も伝統的な刀装具形態とされています。
捩環頭大刀（ねじりかんとうのたち）: 楔形柄頭大刀の柄頭上部に、捩りを加えた半円形の鉄製環（捩環）を取り付けたものです。

袋状柄頭の大刀（ふくろがしらのたち）

把頭が金属製でやや大型の「袋状」構造を持つものです。

頭椎大刀（かぶつちのたち・くぶつちのたち）: 柄頭が拳のような形状をしています。把頭表面に「畔目（あぜめ）」と呼ばれる筋状の凹凸を持ちます。
円頭大刀（えんとうのたち）: 柄頭が丸い形状をしています。
圭頭大刀（けいとうのたち）: 柄頭が将棋の駒や中国の玉の一種である「圭」のように山形を呈しています。
鶏冠頭大刀（けいかんとうのたち）: 柄頭が鶏冠のような形状をしています。
* 方頭大刀（ほうとうのたち）: 柄頭が角張っており、直方体に近い形状をしています。

装飾付大刀の終焉

様々な種類の装飾付大刀は、古墳時代後期から終末期（飛鳥時代）にあたる6世紀から7世紀にかけて隆盛しましたが、律令制の導入など、国家体制が大きく変化する7世紀後半には、急速にそのバリエーションを失い、金や銀、金銅装の装飾も減少し、方頭大刀のみに形態が絞られていきました。

方頭大刀の形態は、奈良時代以降の大刀外装としても存続し、正倉院に所蔵されている「黒作大刀」や「金銀鈿荘唐大刀」へとその系統が受け継がれていきました。

まとめ

装飾付大刀は、古墳時代後期の社会や文化を象徴する重要な遺物であり、当時の権力構造や技術力を知る上で欠かせない存在です。その種類や変遷を辿ることで、古代日本の歴史をより深く理解することができるでしょう。

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