製図ペン

製図ペン：精密な線を引くための道具

製図ペンは、建築図面や機械図面などの精密な図面を描くために開発された筆記具です。他のペンと異なり、筆圧に左右されずに均一な太さの線を描くことができるのが特徴です。そのペン先は、特定の太さの中空パイプと、毛細管現象を利用した中軸で構成されており、安定したインク供給を実現しています。そのため、製図ペンは「技術ペン (technical pen)」とも呼ばれます。また、製図用万年筆やパイプペンという呼び名も用いられる他、元祖メーカーであるロットリング社の名を冠して呼ばれることもあります。

製図ペンの歴史

製図ペンの起源は、19世紀後半に開発されたスタイログラフィックペンに遡ります。このペンは、アメリカのアロンゾ・タウンゼント・クロスとカナダのダンカン・マッキノンによって発明されました。その後、ドイツのロットリング社が1953年、製図ペンの原型となる『ラピッドグラフ』を発表しました。ラピッドグラフは、正確な線幅を実現した画期的な製品であり、それまでのカラス口による製図を大きく変えました。従来の万年筆でも製図に用いられることはありましたが、様々な線幅のペン先を用意したり、耐水性・耐光性に優れたインキを使用する必要があり、正確な線幅の再現は困難でした。ラピッドグラフの登場により、正確で均一な線幅の描画が容易になり、製図作業の効率化に大きく貢献しました。

線幅と規格

製図ペンは、様々な線幅のペン先が用意されています。初期の製品は「標準」とよばれる線幅を用いていましたが、その後、国際規格ISO 128に準拠した製図用線幅が定義されました。さらに、1988年には製図ペンの国際規格ISO 9175が制定され、線幅の精度や品質が国際的に統一されました。ISO規格に準拠した製品には、線幅の識別のために「ISOカラーコード」と呼ばれる色分けが施されている場合もあります。

製図ペンの種類と競合製品

製図ペンは、主にインクの種類によって分類できます。伝統的なインキを使用するタイプに加え、水性顔料系インクを使用するタイプもあります。1980年代には、水性顔料系インクの極細マーキングペン（ミリペン）が登場し、製図ペン市場に競合製品が生まれました。ミリペンは製図ペンよりも安価ですが、摩耗による線幅の変化や、ISO規格のような厳密な線幅の管理がされていない点が欠点として挙げられます。

CADと製図ペンの現在

近年、コンピュータ支援設計（CAD）の普及により、製図作業はデジタル化が進んでいます。図面出力にはプロッタと呼ばれる大型プリンタが用いられることが多くなり、手描きによる製図作業は減少傾向にあります。しかし、製図ペンは、その均一で精密な線幅を生かして、漫画の枠線描画や、独特の質感表現を必要とするイラスト制作など、新たな用途で使われ続けています。無機質な線質は、独特の表現方法として評価されています。

主要メーカー

製図ペンを製造する主要メーカーには、以下の企業があります。

ロットリング社 (rOtring): 1953年に最初の製図ペン「ラピッドグラフ」を開発した、製図ペン業界のパイオニア的存在。そのブランド名は、製図ペンとほぼ同義語として認識されています。
ステッドラー社 (STAEDTLER): 製図ペン市場において、高い売上高を誇る大手メーカーです。
* メカノーマ社 (Mecanorma): 精密な筆記具を製造するメーカーとして知られています。

製図ペンは、その精密性と安定した描画性能から、現在でも多くの分野で利用されています。デジタル化が進む現代においても、手描きの温かみと精密さを両立する道具として、その存在感を保ち続けています。

もう一度検索