複雑な彼

『複雑な彼』

三島由紀夫が手がけた『複雑な彼』は、彼の数少ないエンターテインメント性の強い長編小説の一つです。この作品では、男性フライトアテンダントに恋する女性と、その恋愛の相手である男性の複雑な人生が描かれています。作品の舞台は1960年代で、中国西部を背景に様々な人間模様が繰り広げられます。

物語の背景と主人公

本作の主人公「宮城譲二」は、実在の人物である安部譲二をモデルにしており、彼は過去に暴力団員をしていたという異色の経歴を持っています。作品の中での謎めいたキャラクターとして描かれる宮城は、流暢な英語とフランス語を話し、威厳のある姿勢で人々に印象付けます。彼の過去や秘密が物語に深みを与え、読者を引き込む要素となっているのです。

あらすじ

物語は、森田冴子という女性が国際線の機内で宮城譲二と出会うところから始まります。冴子はアメリカに同行しており、宮城の優雅な接客に心を奪われます。サンフランシスコに到着した後も、冴子は友人から宮城の過去について耳にします。彼は以前、井戸掘りをしていた過去を持ち、その実態はルリ子という友人によって語られます。

その後、冴子は様々な都市を訪れ、宮城に関する噂を集めていきます。彼の家庭や過去の職業、さらには新聞社での彼の仕事から有名な写真まで、冴子は宮城の人生を探る旅に出ます。宮城は横浜出身で銀行員の息子でありながら、過去に自身の忠誠を環境に裏切られてきたことも明かされます。

愛と葛藤

宮城と冴子の関係は、常に不安定な状況に置かれています。宮城は自分の気持ちに気づき、冴子への愛を自覚する一方、彼の過去や隠された事情が二人の前に立ちはだかります。さらに、冴子の父の存在や、彼女の人生の道筋が二人の愛を脅かし、複雑な人間模様が展開されます。

冴子は、一時の恋的な感情を抱くとともに、宮城が抱える重い運命を理解しようとします。彼女は宮城のことを真剣に考え、彼との関係をどうにかして築こうと尽力します。しかし、再び現れる「ふしぎな男」からの謎めいた提案や要請が、彼らの愛に新たな試練をもたらします。

結末に向けた運命の選択

物語の終盤では、宮城と冴子は大きな選択を迫られます。冴子は家族との義務と愛情との間で葛藤し、宮城は自身が本当に望む人生を見極めるための冒険へと導かれるかのようになります。彼女の決意や宮城の運命の選択は、三島由紀夫の思想や価値観が色濃く反映された場面になることでしょう。

この小説は、単なる恋愛物語としてではなく、人間の自己認識や、他者との関係性、さらには運命に対する選択を考えさせる内容が含まれています。三島由紀夫のユニークな視点が響く本作は、彼の他の作品とは一線を画すエンターテイメントとして、多くの読者に読み継がれています。

もう一度検索