西の魔女が死んだ

西の魔女が死んだ

梨木香歩による小説『西の魔女が死んだ』は、主人公の少女まいが、魔女である祖母との生活を振り返る物語です。作者のデビュー作でありながら、日本児童文学者協会新人賞、新美南吉児童文学賞、小学館文学賞を受賞しました。2008年には実写映画化もされ、原作は累計170万部を発行しています。

概要

物語は、傷つきやすい少女まいが、自らを魔女と呼ぶ祖母との暮らしを回想する形で進みます。現代社会の喧騒とは対照的な、自然に囲まれた生活が描かれ、人の死という普遍的なテーマも扱われています。作中に登場する魔女の魔法は、ファンタジーのような大げさなものではなく、少し不思議なことが分かる程度のものです。しかし、その力ゆえに迫害を受ける描写もあり、現実世界での魔女のイメージにも通じるものがあります。

あらすじ

おばあちゃんの危篤の知らせを受けたまいは、病院に向かう車中で、2年前に祖母と過ごした1ヶ月間を思い出します。中学校に入学したばかりの頃、不登校になったまいは、祖母の家で「魔女修行」をすることになります。その修行とは、自分のことは自分で決めるというものでした。

規則正しい生活、ジャム作り、自然との触れ合いなど、修行は概ね順調に進みます。しかし、祖母の知り合いであるゲンジさんに、まいは嫌悪感を抱きます。修行から3週間ほど経ったある朝、鶏小屋が荒らされ、鶏たちが無残な姿になっているのを発見します。その夜、祖母と死について話した際、「魂は体から離れて自由になる」という言葉を聞き、祖母が死んだ時に教えてくれるという約束をします。

ある日、まいのお気に入りの場所をゲンジさんが耕しているのを目撃し、動揺したまいは祖母にゲンジさんを罵倒し、「死んでしまえばいいのに」とまで言ってしまいます。祖母はまいの頬を打ち、二人の間に溝ができてしまいました。その確執を解消できないまま、まいはおばあちゃんと別れて両親と暮らすことになります。

2年後、祖母が亡くなり、実家に駆けつけたまいは、過去のわだかまりを後悔します。しかし、祖母との約束の痕跡を見つけ、号泣しながら「おばあちゃん、大好き」と呟くのでした。

登場人物

まい：本作の主人公。イギリス系と大和系のミックスルーツの少女。中学校で周囲に同調することをやめたため孤立し、不登校となる。祖母の元で魔女修行を通して成長していく。
おばあちゃん：まいの母方の祖母で、イギリス人の魔女。まいを魔女として育てようとする。ゲンジさんにも寛容で、まいとは意見が合わない。しかし、まいとの約束を果たし、彼女との確執は解消される。
ママ：まいの母親。おばあちゃんの娘で、まいと同様にミックスルーツ。家事と仕事の両立に苦労しており、教育方針も祖母とは異なる。学校に馴染めなかった過去を持つ。
パパ：まいの父親。単身赴任中で、まいに家族で引っ越すことを提案する。死について問われた際、「死んだらそれっきり」と答えている。
ゲンジさん：おばあちゃんの家の近所に住む男性。まいの土地に無断で侵入したり、嫌がらせをしたりする。まいの神経を逆撫でする言動が多く、まいとおばあちゃんの確執を生む。しかし、祖母の最期を看取っていたり、祖父が好きだった花を渡したりする姿に、まいは彼への嫌悪感を消していく。
おじいちゃん：おばあちゃんの夫。物語の中では既に故人。おばあちゃんの回想の中にのみ登場し、ゲンジさんにも優しかった人物として語られる。

書誌情報

『西の魔女が死んだ』〈楡出版〉1994年
『西の魔女が死んだ』〈小学館〉1996年
『西の魔女が死んだ』〈新潮社〉1996年 ISBN 978-4-10-125332-9
『西の魔女が死んだ』（第1分冊、第2分冊）（霞会館福祉事業委員会京都支所、2010年） - 非売品
『西の魔女が死んだ 梨木香歩作品集』（新潮社、2017年）

小学校・中学校の教科書にも一部収録されています。

翻訳

タイ語: ปริวัณย์ เยี่ยมแสนสุข訳『แม่มดฝึกหัด』（JBOOK、2007年）
朝鮮語: 김미란訳『서쪽 마녀가 죽었다』〈블루픽션36〉（비룡소、2009年）
中国語: 竺家荣訳『西女巫之死』〈经典文库〉（人民文学出版社、2012年）、竺家荣訳『勿忘我』〈梨木香歩作品系列〉（人民文学出版社、2017年）
イタリア語: Michela Riminucci訳『Un'estate con la strega dell'Ovest e altri racconti』〈Narratori〉（Feltrinelli、2019年）

ラジオドラマ

NHKラジオ第1放送、FMの「ラジオ深夜便小劇場」枠でラジオドラマ化され、2005年3月に放送されました。

出演：中村メイコ ほか
音楽：遊佐未森

映画

2008年6月21日に全国で公開されました。文部科学省特別選定作品、青少年映画審議会推薦作品、厚生労働省社会保障審議会推薦作品。映画館大賞「映画館スタッフが選ぶ、2008年に最もスクリーンで輝いた映画」第59位。

撮影は、山梨県の清里高原に作られたセットで行われました。

キャスト

おばあちゃん：サチ・パーカー
まい：高橋真悠
ママ：りょう
パパ：大森南朋
ゲンジ：木村祐一
郵便屋さん：高橋克実

スタッフ

監督：長崎俊一
脚本：矢沢由美、長崎俊一
音楽：トベタ・バジュン
主題歌：手嶌葵「虹」

ソフト化

西の魔女が死んだ DVD特別版（2008年11月21日発売）
【TCE Blu-ray SELECTION】西の魔女が死んだ ブルーレイ スペシャル・エディション（2012年9月5日発売）

渡りの一日

『西の魔女が死んだ』の後日談を描いた短編小説。文庫本に収録されています。

あらすじ

まいは友人のショウコとサシバの渡りを見に行く約束をしていましたが、ショウコはすっぽかします。ショウコは謝る様子もなく、まいは絵画展に行くことになります。その後、同級生の藤沢の怪我に遭遇し、代わりに競技場に荷物を届けることになります。帰りのバスがない中、藤沢の兄の婚約者のあやの車に乗せてもらい、絵画展に到着します。そこでサシバの絵画を見たまいは涙を流し、ショウコはまいの立てたプランは全て達成されたと呟きます。

登場人物

加納 まい：『西の魔女が死んだ』の主人公。転校先で、祖母との修行の成果を発揮している。
和邇 ショウコ：まいの親友。少し変わった性格だが、本人は気にしていない。
順子さん：ショウコの母。元婦人警官。
藤沢：まいとショウコのクラスメート。
藤沢の兄：サッカーの試合に出る予定だったが、ユニフォームを忘れてしまう。
笹島 あや：ダンプカーの運転手。藤沢の兄と婚約している。「やりたいことを仕事にする」が信条。

関連項目

不登校

脚注

外部リンク

映画版公式サイト
西の魔女が死んだ - allcinema
西の魔女が死んだ - KINENOTE
The Witch of the West Is Dead - オールムービー（英語）
* The Witch of the West Is Dead - IMDb（英語）

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