西大立目永

西大立目永：球界を見守った厳格なる名審判

1936年7月10日に東京都武蔵野市で生を受けた西大立目永（にしおおたちめ ひさし）氏は、アマチュア野球界において選手、そして特に審判員として多大な足跡を残しました。また、早稲田大学では教壇に立ち、名誉教授として後進の育成にも力を注ぎました。2002年12月16日、惜しまれつつ66歳でその生涯を閉じました。

経歴と教育者としての一面

早稲田大学高等学院を経て早稲田大学政治経済学部へと進んだ西大立目氏は、学生時代は野球選手としてプレーしました。卒業後、1966年には早稲田大学野球部OB会である稲門倶楽部の推薦を受け、東京六大学野球リーグの審判員としての道を歩み始めます。翌年からは社会人野球、さらに1968年には夏の全国高等学校野球選手権大会の審判委員にも就任し、大学野球のみならず、社会人野球、高校野球と、幅広いカテゴリーでジャッジを務めることになりました。その傍ら、母校である早稲田大学では主にソフトボールに関する講義を担当。教育者としては非常に厳格な一面を持ち合わせており、礼儀を重んじ、学生に対して容赦なく厳しい評価（不可）を下す教授としても知られていました。

審判から指導者へ

審判員として脂が乗り切った1986年、西大立目氏は50歳という若さでグラウンドでの審判活動から身を引き、後進の指導育成に専念することを決意します。この転身後も、その豊富な知識と経験は球界に不可欠なものとされ、東京六大学野球連盟審判技術顧問や日本アマチュア野球規則委員会委員長、日本野球規則委員会委員長、そして全日本野球会議審判技術委員会委員長など、野球規則や審判技術に関する要職を歴任しました。審判の質の向上と、より公正な競技環境の整備に尽力し、日本の野球界の発展に貢献したのです。

人物像と印象的なエピソード

現役選手時代は一塁手兼投手を務めていた西大立目氏ですが、審判員としてはその長い姓と珍しい読み方から、実況アナウンサーが名を読み上げる際に一瞬の間を置いたり、「にしおおだちめ」と誤読されたりといったエピソードも残されています。彼の審判ぶりは、単に規則を適用するだけでなく、時には選手の態度や状況に対して直接的な言葉を投げかける情熱的なものでした。

特に語り草となっているのが、1985年の全国高等学校野球選手権大会での二つの出来事です。一つは、東海大山形高校対PL学園高校の大差がついた試合で、9回にリリーフ登板したPL学園の清原和博選手に対し、初球にカーブを投じたことを見て「真ん中、まっすぐ放りなさい！」とマウンド上の清原選手に直接声をかけたというもの。勝負を避けず、正々堂々と投げろという審判としてのメッセージと受け取られています。もう一つは、同じ大会の銚子商業高校対宇部商業高校戦での出来事です。サイズの合わない帽子で投球のたびにキャップを落としていた銚子商業の片平哲也投手に業を煮やし、「帽子にあご紐をつけなさい！」と一喝。悪天候の中、集中を欠くプレーに対して厳しい態度を示したエピソードとして記憶されています。これらのエピソードからは、厳格さの中に選手の指導や試合への集中を促す西大立目氏の審判哲学が垣間見えます。

名勝負とともに

西大立目氏は、その審判キャリアの中で数多くの歴史的な試合を裁きました。特に1980年代は、畠山準投手や水野雄仁投手を擁した池田高校と、「KKコンビ」こと桑田真澄投手、清原和博選手を中心としたPL学園高校が高校野球界を席巻した時代であり、両校の対戦をはじめとする数々の名勝負に立ち会う機会が多くありました。彼は決勝戦や準決勝といった重要な試合で球審や塁審を務め、緊迫した場面での正確なジャッジで試合の行方を見守りました。その豊富な経験と確かな技術は高く評価され、没後には高校野球の名勝負を知る審判として、朝日新聞の「追悼」記事に掲載されるなど、改めてその功績が称えられました。

審判員、教育者、そして野球規則の専門家として、日本の野球界、特にアマチュア野球の発展に尽くした西大立目永氏。彼の厳格ながらも温かい指導と、グラウンドで見せた公正なジャッジは、多くの選手や関係者の心に深く刻まれています。

著書

『必携 野球の審判法』（1995年/大修館書店）
『野球教室』（1971年/大修館書店）

もう一度検索