西東三鬼

西東三鬼：モダンな感性と自由な発想の俳人

西東三鬼（さいとうさんき、1900年-1962年）は、岡山県津山市出身の俳人です。本名は斎藤敬直。代々漢学者の家系に生まれ、歯科医として働きながら、30代で俳句の世界に入りました。

三鬼の俳句は、伝統的な俳句の形式にとらわれず、自由な発想とモダンな感性にあふれています。戦前、新興俳句運動の中心人物として活躍し、戦後も『天狼』『雷光』といった俳誌に参加、自身も『断崖』という俳誌を主宰しました。

波乱に満ちた生涯

三鬼の生涯は、決して平坦なものではありませんでした。幼少期は病弱で、青年期にはスペイン風邪で母を亡くすなど、数々の困難を経験しています。歯科医としてシンガポールで開業しますが、不況とチフスの罹患により帰国。その後、東京や埼玉、神戸などを転々とし、歯科医の傍ら、俳句創作に没頭しました。

1940年には『天香』という俳誌を創刊しますが、翌年には「京大俳句事件」に連座して検挙され、一時句作を中止せざるを得ませんでした。戦後、新俳句人連盟に参加しますが、すぐに脱退。その後、石田波郷、神田秀夫らと現代俳句協会を設立するなど、精力的に活動しました。

晩年は、角川書店『俳句』の編集長を務めるなど、俳壇の重鎮として活躍しましたが、1961年に胃癌を発病、翌年4月1日、永眠しました。

作風と代表句

三鬼の俳句は、従来の俳句の形式にとらわれず、自由な発想と新鮮な題材で知られています。異国での生活経験や、歯科医という職業経験も、彼の俳句に独特の視点を与えました。切れ字をあまり用いず、直叙的な表現が多いことも特徴です。代表作として、以下のような句があります。

「水枕ガバリと寒い海がある」
「算術の少年しのび泣けり夏」
「白馬を少女瀆れて下りにけむ」
「中年や遠くみのれる夜の桃」
「おそるべき君等の乳房夏来（きた）る」
「露人ワシコフ叫びて石榴打ち落す」
「広島や卵食ふ時口ひらく」
「頭悪き日やげんげ田に牛暴れ」

これらの句からは、三鬼の鋭い観察眼と、社会や人間に対する深い洞察が感じられます。特に戦時中は、「戦火想望俳句」と呼ばれる戦争を題材とした句を多く創作しましたが、戦後は有季を基本とした作風に戻りました。

多彩な才能

三鬼は俳句以外にも、ダンス、乗馬、ゴルフ、ギター、マンドリン、油絵など、多彩な才能を持っていました。口髭とベレー帽がトレードマークで、五木寛之は彼を「ヨーロッパの一神教的な発想からはとらえられない混沌としたアジア的人間」と評しています。

著作と影響

三鬼は多くの句集や散文を残しました。代表的な句集には、『旗』『夜の桃』『今日』『変身』などがあります。また、『神戸』『続神戸』『俳愚伝』などの自伝的散文は、『冬の桃』としてテレビドラマ化もされました。

西東三鬼は、近代俳句史に大きな足跡を残した重要な俳人です。彼の自由奔放な作風と、人生経験に裏打ちされた深い感性は、現代の俳句に多大な影響を与え続けています。没後も、「西東三鬼賞」が設立されるなど、その功績は高く評価されています。彼の作品は、現代においても新鮮な感銘を与え、多くの人々に読み継がれています。多くの関連文献も出版されており、三鬼の生涯や作品について深く知ることができるようになっています。

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