西欧の服飾 (17世紀)

17世紀西欧服飾：バロック様式の確立と市民文化の隆盛

17世紀の西欧服飾は、フランスのルイ14世の親政を機にバロック様式が確立し、華やかで装飾的なスタイルが特徴です。しかし、時代とともに変化し、市民文化の隆盛とともに、より実用的で多様なスタイルが生まれました。

ファッションの変遷

17世紀初頭は、16世紀のスペイン風ファッションが主流でしたが、動きにくいという欠点がありました。そのため、襞襟（ラフ）の軽量化や、半ズボン（オー・ド・ショース）の改良など、徐々に変化が見られました。

1630年頃からは、男性のファッションから襞襟や詰め物が消え、より動きやすい服装が主流になります。スペインの弱体化に伴い、オランダの富裕市民の衣装が流行し、ケープやブーツなど、農民や兵士の服装が宮廷でも取り入れられるようになりました。上衣は短くなり、半ズボンは膝下丈でゆったりとしたものに変化しました。

女性のファッションも1640年代には変化が見られ、コルセットやスカート枠が廃れ、スカートを重ねて膨らませるスタイルや、スリップオン式の靴（パントゥフル）が流行しました。

1661年、ルイ14世の親政が始まると、フランスファッションが主導権を握ります。リシュリューやマザランによる贅沢禁止令が出される一方で、コルベールはモード産業の重要性を認識し、リヨン王立織物製作所や王立レース工場を設立するなど、国内のモード産業を育成しました。

1672年には、世界初のファッション誌『メルキュール・ギャラン』が創刊され、マネキン（パンドラ）を使って最新の流行をヨーロッパ中に広めました。1670年頃には、男性のジュストコール、ヴェスト、キュロットの一式が確立し、女性の髪型や服の作りは、有力なサロンの女主人に影響されるようになりました。また、インドから輸入された木綿布「アンディエンヌ」が流行し、国内でも模造品が製造されました。

男子の服飾

初期にはスペイン風の詰め物と固い飾り襟が特徴でしたが、1630年代には詰め物がなくなり、リボンや飾りボタンで飾った膝下丈の半ズボンが主流になりました。襟は柔らかく垂れ下がり、「ルイ13世襟」と呼ばれるようになりました。上着は短くなり、ケープ型の外套を羽織り、鍔の広いフェルト帽をかぶるのが一般的でした。

ルイ14世の時代には、プールポアンが極端に短くなり、防寒のためにドロワーズやカミソル、ジュストコール、ヴェストなどが着用されるようになりました。ルイ14世自身がハイヒールを愛用し、アロンジュという大仰な鬘を着用したため、貴族の間でも流行しました。帽子はトリコルヌ（三角帽）へと変化し、ジュストコール、ヴェスト、キュロット、ハイヒール、トリコルヌという、18世紀まで続くスタイルが確立しました。

庶民の服装

農夫や樵は、シュミーズにホーズまたはブリーチェスを穿き、頭巾やエプロンを着用していました。防寒用にはジャケット風の外套を着ることがあり、ドイツでは「ロック」、イギリスでは「ジャク」と呼ばれていました。髪は短く刈り込み、領主の下で働く羊飼いは、古風なプールポアンとブリーチェスを着用し、クローク（マント）を羽織っていました。

牛乳屋はジャケットにキュロットを穿き、大きなボタンのついたブーツと平らな帽子を着用し、ワイン作りの親方はプールポアンにブリーチェス、革のエプロンを着用していました。職人たちは、短いプールポアンにブリーチェスを穿き、エプロンを締め、円錐型の帽子を被っていました。肉屋は袖のない革のプールポアンを着用し、パン屋は短いシュミーズにエプロンを締め、帽子を被っていました。

上流市民の服装

1630年代頃から、オランダの富裕市民の服装が流行しました。柔らかい襟、つばの広い帽子、プールポアンとゆったりしたズボンをブーツと合わせたスタイルが特徴です。色は黒や深紅が中心でしたが、パステル調の色や煙ったような色合いも人気を集めました。

ルイ14世の時代には、短いプールポアンにジャボやレースのカフス、カノンを身につけるスタイルが流行しました。また、「ラングラーヴ」というスカートのような半ズボンも流行し、リボン束で飾られていました。カールした長い金髪の鬘も人気を集め、クラヴァット（ネクタイの原型）も登場しました。

役所や裁判所に勤める者は、スペイン風の堅苦しい恰好をしなければならず、ベルギーやオーストリアでは、宮廷を中心にスペイン風の衣装が長く着用されていました。

上流階級の服装

宮廷では、スペイン風の服装が正装として使われていましたが、日常の衣服や舞踏会などでは、より軽快な格好が一般的でした。大きく膨らんだアロンジュ鬘、膨らんだシュミーズの袖、広幅のズボン「ラングラーヴ」、短いプールポアン、長いクラヴァットなどが流行しました。リボンの束は「ギャラント」と呼ばれ、伊達男の象徴とされていました。

室内では豪華な生地で仕立てた長袖のジャケット「ヴェスト」を着るようになり、部屋着としてはインド更紗のガウン「アンディエンヌ」が流行しました。上着としては、兵士が着ていた「カザック」を洗練させた「ジュストコール」が着用され、クラヴァットというスカーフを巻くのが一般的でした。ルイ14世がハイヒールを愛用したため、貴族男性も真似て履くようになり、赤いハイヒールを貴族のみの特権として宣言しました。

女子の服飾

女子の衣服の改良は、男子よりやや遅れて始まりました。スカート枠とコルセットが衰退し、スカートのボリュームは、刺繍を施した豪華なジュップ（アンダースカート）を重ねることで保たれるようになりました。ローブは胸元を大きく開け、スリップオン式の靴「パントゥフル」が流行しました。

1650年代には、体型を補正するコール・バレネが登場し、袖は七分丈程度に短くなりました。男子の襞襟が早くに廃れたのとは対照的に、女子のフレーズは1660年代まで生き延びました。1667年には婦人服仕立屋ギルドが分立し、貴婦人達は流行に没頭しました。コルセットは軽量化され、乳房を持ち上げて胸を強調する形に変わりました。

農婦はボンネットやスカーフ、麦わら帽子を被り、毛織のボディスとスカートやワンピースの上にオーバースカートを着てエプロンを締めていました。市民の間にオランダファッションが流行した1650年代前後の一般の女性の服装は、風俗画に見られます。

上流市民の女性は、長手袋とマフを愛用し、軽やかな色合いのサテンのドレスを着用していました。スカートは三枚のジュップを重ねてゆるやかに広げ、胸元を大きく開けて見せるのが特徴でした。部屋着としては、着物風のガウン「ヤポン」が流行し、イギリスやフランスでは、インド更紗で仕立てたガウン「アンディエンヌ」が着用されました。

上流階級の女性は、宮廷で儀礼や身分の違いを表現するために、前時代的な恰好をしていましたが、ルイ14世の親政開始後は、王の愛人や女友達が主催するサロン文化が隆盛し、ファッションはより華やかになりました。モール、黒いレース、リボンの段飾り、造花などを施した豪華なローブをまとうのが一般的でした。モンテスパン夫人が流行させた「ローブ・ド・シャンブル」も人気を集めました。

1680年には、フォンタンジュ嬢が考案したヘアスタイルが流行し、リボンやレース飾りで飾るスタイルがヨーロッパ大陸全土に広まりました。

17世紀の西欧服飾は、バロック様式の華やかさと、市民文化の隆盛による多様性が共存する、興味深い時代でした。

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