オー・ド・ショース

オー・ド・ショースは、16世紀から17世紀にかけてヨーロッパの男性に愛用された、ゆったりとしたシルエットの脚衣です。これは、それまで一体化していたショース（現代のタイツに似た脚衣）が、時代とともにバ・ド・ショース（靴下）とオー・ド・ショース（半ズボン）に分化したことで生まれたもので、後のキュロットの原型となりました。英語では「トランク・ホーズ」や「ブリーチズ」とも呼ばれます。

多様な形状

オー・ド・ショースはスペインで生まれましたが、瞬く間にヨーロッパ各地へと広まりました。しかし、地域によってその形状には大きな差が見られました。

スペイン・フランス: 太もも丈で、玉ねぎのように丸く膨らませた形状が特徴です。
イタリア（主に北部）: 膝下丈で、比較的ゆったりとしたシルエットでした。
イギリス: 太もも丈で、かぼちゃのように全体を大きく膨らませた形状が好まれました。しかし、動きにくいという難点があり、当時のイングランド女王エリザベス1世が議会の椅子を新調する必要があったほどです。
ドイツ: 詰め物をせず、バンド状の表地の間から裏地を引き出して垂らすスタイルが主流でした。

貴族の間では、これらの様々なスタイルのオー・ド・ショースを数種類所有することが一般的でした。

装飾

16世紀は、布地に切れ込みを入れて裏地を見せる「スリット装飾」が流行しました。この装飾はスイス傭兵が考案したとされ、1490年代に登場しました。マテウス・シュバルツが注文したプールポワンには、なんと4800ものスリットが施されていたそうです。

その後

17世紀前半には、オー・ド・ショースの上にスカートのような形状の「ラングラーヴ」を重ねて着用するスタイルが流行しましたが、これは一時的なものでした。17世紀後半になると、オー・ド・ショースは詰め物を取り除かれ、「キュロット」と名を変えて再び単独で着用されるようになりました。

オー・ド・ショースは、その形状や装飾を通して、当時の社会や文化を映し出すファッションアイテムでした。

参考文献

丹野郁 編『西洋服飾史 増訂版』東京堂出版 ISBN 4-490-20367-5
千村典生『ファッションの歴史』鎌倉書房 ISBN 4-308-00547-7
菅原珠子『絵画・文芸に見るヨーロッパ服飾史』朝倉書店 ISBN 4-254-62008-X
深井晃子監修『カラー版世界服飾史』美術出版社 ISBN 4-568-40042-2
平井紀子『装いのアーカイブス』日外選書 ISBN 978-4-8169-2103-2
ジョン・ピーコック『西洋コスチューム大全』ISBN 978-4-7661-0802-6
オーギュスト・ラシネ『服装史 中世編I』マール社 ISBN 4-8373-0719-1
マックス・フォン・ベーン『モードの生活文化史』河出書房新社 ISBN 4-309-22175-0

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