西穂高岳落雷遭難事故

西穂高岳落雷遭難事故

1967年8月1日、長野県西穂高岳の独標付近で、松本深志高校の登山パーティーが落雷に遭い、多数の死傷者を出した痛ましい事故です。この事故は、学校登山における安全管理の重要性を改めて社会に問いかける出来事となりました。

事故の概要

事故当日、日本列島は2つの高気圧に挟まれ、南海上には台風が存在するという不安定な気象状況でした。松本深志高校の登山パーティーは、教員5名を含む総勢55名で西穂高岳を目指していました。これは、個人登山の危険を避けるため、学校が主催する恒例の行事でした。

パーティーは午前中に山頂に到達しましたが、天候が急変し、ひょうを伴う激しい雷雨に見舞われました。下山を開始したものの、ピラミッドピーク付近で再び雷雨に見舞われ、独標付近の鎖場で落雷が発生。これにより、生徒たちは感電し動けなくなったり、転落したりと、現場は混乱を極めました。

事故発生後、西穂山荘の従業員や東邦大学医学部の医師らが救助活動を開始。近隣の登山パーティーも自主的に救援に駆けつけました。救助隊は負傷者の応急処置や搬送を行い、無事だった生徒と教員は山荘へ避難しました。しかし、その日の夜までに8名の死亡が確認され、3名が行方不明となりました。

翌朝、長野県警や高校OB、乗鞍岳からの応援隊による捜索活動の結果、3名全員が遺体で発見され、死者は計11名となりました。遺体は自衛隊によって下山され、ヘリコプターで搬送されました。負傷者もヘリコプターで病院へ搬送されました。

最終的に、この事故で生徒11名が死亡、生徒・教員と会社員の計12名が重軽傷を負いました。死者のうち9名は落雷による感電死、2名は落雷によるショックでの転落死でした。

事故の影響

この事故は、当時の日本社会に大きな衝撃を与えました。落雷事故で一度にこれほどの死傷者が出た例はなく、新聞各紙が一面で報じるほどでした。学校登山の歴史に残る大惨事として、長野県下の多くの学校が登山行事を一時的に中止、または廃止せざるを得なくなりました。

事故後、引率教員の責任を問う声も上がりましたが、警察は最終的に刑事責任を問うことはありませんでした。しかし、事故調査報告書では、引率教員の気象知識と経験不足が指摘され、より慎重な判断が求められる状況下で、引き返す判断ができなかったことが批判されました。また、過去にはより安全な場所が選ばれていたにもかかわらず、難易度の高い西穂高岳が選ばれたことにも疑問が呈されました。

その後の安全対策

事故後、落雷のメカニズムや危険性に関する研究が進み、適切な安全対策を講じることで落雷事故は防止できるという認識が広まりました。特に、登山においては、雷の予兆があれば躊躇なく登山を中止すべきであり、万が一雷に遭遇した場合の避難方法についても、以前とは異なる安全対策が実施されるようになりました。

文部科学省は、学校での安全教育教材を作成し、落雷被害防止について解説しています。また、全国の小中学校に対し、落雷事故防止のための適切な措置を講じるよう通達しました。これにより、各学校単位で具体的な安全対策が実施されるようになりました。

備考

作家の阿川弘之は、小説『犬と麻ちゃん』の中で、この事故について言及しています。これにより、小説の舞台が1968年であることが示唆されています。


この事故は、登山における安全管理の重要性を改めて認識させられる出来事でした。教訓を活かし、二度とこのような悲劇が繰り返されないよう、私たち一人一人が安全に対する意識を高めていく必要があります。

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