西行花伝

『西行花伝』について

辻邦生による『西行花伝』は、歌人僧・西行の生涯を描いた歴史小説で、1991年から1993年まで新潮社の文芸雑誌『新潮』に連載されました。この作品は、作家の思索を深める重厚な叙述と、平安時代から鎌倉時代の動乱を生きた西行の姿を描いており、多くの読者の心を捉えています。

物語は、架空の弟子である藤原秋実を中心に構築されており、各章ごとに異なる語り手が登場します。この巧妙な構成により、西行の周囲の人々の視点を通して彼の生涯が浮き彫りになり、彼がどのようにして出家し、歌道に生きる決意を固めたのかが描かれています。

西行は、平安時代の宮中で北面武士として警護の任に当たっていましたが、さまざまな理由から出家し、雲水として自由な生涯を求めるようになります。彼の歌に対する情熱や、美の追求に対する姿勢は、物語の中で非常に力強く表現されています。読者は、彼自身の内面の葛藤や、生き方の選択を通じて感動を覚えることでしょう。

この作品は、加筆修正を経て1995年に単行本として出版され、同年には谷崎潤一郎賞を受賞しました。さらに大佛次郎賞にも推薦されましたが、辻邦生自身が当時その選考委員であったため、受賞を固辞しています。作家の意志が表れたこのエピソードは、彼の文学への真摯な姿勢を垣間見ることができます。

しかし、1994年に軽井沢での人身事故により長期療養を強いられたため、刊行スケジュールは大幅に遅れました。辻邦生は、1999年に『西行花伝』の文庫版を再刊行すると、残念ながらその直後に急逝しました。その死は、彼が抱えていた交通事故の後遺症が影響していたとも言われています。

没後にはエッセイ集『微光の道』が発表され、同書には自作についての解題も収められています。このように、『西行花伝』は辻邦生の文学的な成果であるだけでなく、彼の人生や思想をも反映した作品であるといえるでしょう。

刊行書誌

• - 『西行花伝』(新潮社、1995年4月)
• - 限定版も発行されています。
• - 『西行花伝』(新潮文庫、1999年7月、改版2011年5月)
• - 高橋英夫による解説が付いており、2022年には電子書籍化されました。
• - 辻邦生全集の第14巻に収められています (新潮社、2005年7月)

このように、『西行花伝』は文学作品としてだけでなく、作家自身の人生経験を映し出す重要な書でもあります。

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