西部田村事件

つげ義春『西部田村事件』：大多喜の自然と患者との出会い

『西部田村事件』は、つげ義春が1967年に『ガロ』で発表した短編漫画です。主人公の青年が、釣りで訪れた西部田村で精神病院からの脱走患者騒動に遭遇する物語です。この作品は、つげ作品の中でも重要な位置を占め、彼の「旅もの」作品の原点とも言えます。

あらすじ

主人公の青年は、夷隅川へ釣りに出かけます。そこで、西部田療養所（現・大多喜病院）から患者が脱走したという騒ぎに巻き込まれます。村人たちは棍棒を手に患者を捜索し、物々しい雰囲気に包まれています。青年は患者と出会い、行動を共にすることになります。患者は意外にも温厚で、自身の身の上を語り始めます。2人は釣り場で交流を深めますが、患者が足を穴に落としてしまいます。その後、無事に病院へと戻り、青年は静かにハヤを川に放ちます。

作品の背景

この作品は、つげ義春が白土三平と大多喜を訪れた際の体験が基になっています。それまで都会に引きこもっていたつげは、大多喜の自然に触れ、大きな衝撃を受けました。夷隅川での釣り体験や、精神病院の存在が、物語の着想につながりました。ただし、つげ自身は、精神病院や患者を主題とするのではなく、旅の気分やローカルな雰囲気を表現することを重視していました。井伏鱒二のユーモア小説からの影響も指摘されています。

作品の特徴

『西部田村事件』には、いくつかの特徴があります。

自然描写: 大多喜の豊かな自然が、作品の背景として描かれています。夷隅川や猫柳などの風景が、物語に情緒的な深みを与えています。
患者との交流: 脱走患者との交流を通して、人間の複雑さや温かさが描かれています。患者の意外な一面や、青年との心の交流が印象的です。
* 余韻のあるラストシーン: ラストシーンでは、青年がハヤを川に放ちます。このシーンは、寂しさを抑えた表現で、読者に深い余韻を残します。

作品の評価

久保隆は、この作品を「高度に達成された物語表現」と評価しています。一般的にはあまり注目されていませんが、つげ作品の中でも重要な位置を占める作品として評価されています。

旅もの作品の原点

『西部田村事件』は、つげ義春が「旅もの」を描くきっかけとなった作品です。この作品以降、つげは旅先での出会いや風景を描いた作品を多く発表し、一般読者にも人気を博すようになりました。

まとめ

『西部田村事件』は、つげ義春の原点とも言える作品です。大多喜の自然を背景に、患者との出会いと交流を通して、人間の心の機微を描き出しています。ラストシーンの余韻や、旅もの作品への展開など、様々な魅力を持つ作品です。

もう一度検索