西郷札 (松本清張)

『西郷札』の概要

『西郷札』は、日本の著名な作家・松本清張による短編歴史小説である。この作品は、彼のデビュー作ともされ、1951年に『週刊朝日』の新人作家コンクールで第三席を受賞した。後に直木賞の候補作品にも選ばれたことから、その文学的評価は高い。

掲載と出版の歴史

この短編は、1951年3月に『週刊朝日別冊・春季増刊号』に掲載され、今村恒男が描いた挿絵があったことでも知られている。その後、1955年11月には短編集『西郷札』が東京高山書院から刊行され、松本の名を世に知らしめる一助となった。さらに、2003年には朗読CDが新潮社から発売され、作品の新たな形での紹介がなされた。

あらすじ

物語の中心となる人物は、日向国佐土原出身の士族・樋村雄吾である。彼は明治時代の廃藩置県によって家計が急激に厳しくなり、父親の死に加え、西南戦争への参加を余儀なくされる。戦争の最中、彼の家は焼かれ、継母や妹の季乃も行方不明となってしまう。雄吾は悲しみの中、故郷を後にし、東京へと向かう。

東京での彼は、無為な日々を過ごしながら、俥を引くことで生計を立てる。この生活の中で、ある夜、エリート官吏・塚村圭太郎を自邸に送ろうとする際に、偶然にも季乃の姿を見かけ、動揺が走る。彼の心の中には、亡き父や別れた妹への思いが渦巻いていた。

著者の背景と制作過程

松本清張がこの作品を書くに至った背景には、彼自身の経験や時代に対する深い理解がある。彼は当初、このコンクールに応募する意志はなかったが、冨山房の百科事典の一項目を見て思い付いたという。そして、仕事の合間に歴史的資料を調べながら原稿執筆に取り組む。

彼は、原稿の締切日に間に合わなかったために風呂敷包みが盗まれたと嘘をついて詫び状を出すというエピソードも残っている。この事が、後に作品評価に影響を与えたという。

テレビドラマ化

『西郷札』は、1964年と1991年の二度にわたりテレビドラマとして放映された。初回はNHKのオムニバスドラマ「風雪」で、主要キャストには片山明彦が樋村雄吾を演じた。その後の1991年版では、緒形直人が主演を務め、視聴率18.2％を記録。この版では、多くの著名キャストが名を連ねている。

まとめ

『西郷札』は、歴史小説としてだけでなく、家族の絆や人間の意思の力を描いた作品であり、その文学的価値は今なお色あせない。松本清張のデビュー作としての記念すべき一作は、時代を超えて多くの人々に感動をもたらしている。

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