西鉄野球団歌

西鉄野球団歌

「西鉄野球団歌」（にしてつやきゅうだんか）は、現在のプロ野球パシフィック・リーグに属する埼玉西武ライオンズの源流の一つにあたる、かつて存在した球団「西鉄クリッパース」のために作られた球団歌です。作詞は著名な詩人であるサトウハチロー、そして作曲は数々の名曲を生み出した古賀政男が手掛けました。

設立の背景と楽曲の特徴

この球団歌は、1949年末のプロ野球界再編の動きを受け、西日本鉄道が戦時中に解散していたプロ野球チーム「西鉄軍」を事実上再興する形で福岡県に設立した西鉄クリッパースの誕生に合わせて制定されました。作曲を担当した古賀政男氏は福岡県大川市出身ですが、氏が手掛けたプロ野球の球団歌は、この「西鉄野球団歌」のみとされています。

球団名の「クリッパース」は、西鉄が日本総代理店を務めていたパンアメリカン航空のコールサイン「CLIPPER」に由来しています。しかし、歌詞では「快速艇」と表記して「クリッパース」と歌わせる、というユニークな表現が採用されています。

また、九州を本拠地とするチームであったことから、歌詞にはその地域の特色が色濃く反映されています。「筑紫野に玄界灘に」「太宰府の梅が香」「不知火の有明海よ 阿蘇の火山よ」といったフレーズが登場し、九州各地の情景や地理が数多く織り込まれている点が、楽曲の大きな特徴として挙げられます。

短命に終わった運命

しかし、西鉄クリッパースはわずか1年でその歴史に幕を閉じます。1950年のシーズン終了後、同じく同年設立されセントラル・リーグに加盟していた西日本パイレーツと合併することになり、翌1951年シーズンからは「西鉄ライオンズ」として新たなスタートを切ったためです。これに伴い、「西鉄野球団歌」もわずか1年で廃止されることとなりました。

西鉄ライオンズの新たな球団歌には、戦前、プロ野球チーム「ライオン軍」（後の松竹ロビンス）をスポンサードしていたライオン歯磨（現ライオン）から寄贈された「西鉄ライオンズの歌」が採用されました。こちらの球団歌も作詞は「西鉄野球団歌」に引き続きサトウハチロー氏が担当しましたが、作曲は古賀政男氏ではなく、歌手としても知られる藤山一郎氏が手掛けています。

「幻の球団歌」からの発見

わずか1年という短命に終わった「西鉄野球団歌」は、その後長らく「幻の球団歌」として、その存在が不明確な状態が続きました。西日本鉄道の社内にも歌詞や楽譜といった公式な資料は保管されておらず、『西日本鉄道百年史』でもクリッパース結成について触れる箇所に「サトウハチロー作詞、古賀政男作曲による『西鉄クリッパースの歌』も定めた」とごく簡潔に記述されているのみでした。

しかし、近年になってこの幻の球団歌に光が当たる出来事がありました。西鉄ライオンズの研究会が、西日本新聞社の「あなたの特命取材班」に対し、クリッパースの球団歌について詳しく調査してほしいと依頼したのです。この取材班による調査の結果、東京都渋谷区にある古賀政男音楽博物館に、本楽曲の楽譜とサトウハチロー氏直筆とされる歌詞原稿が所蔵されていることが判明しました。

残念ながら、当時のSPレコードなどの製造は確認されませんでしたが、同博物館では所蔵する楽譜をもとに専門家が演奏した録音を試聴することが可能です。この貴重な資料の発見は、2019年4月23日付の西日本新聞紙面で詳しく報じられ、長年謎に包まれていた「西鉄野球団歌」の全貌が明らかになり、多くのファンの知るところとなりました。

もう一度検索