角頭歩戦法

角頭歩戦法：将棋における奇襲戦法の深淵

角頭歩戦法は、将棋における振り飛車系の奇襲戦法です。先手なら▲8六歩、後手なら△2四歩と、序盤早々に角頭に歩を突くことで相手を不意打ちにする戦法として知られています。基本的には先手番の戦法ですが、後手番でも用いることができます。

歴史：坂田三吉から現代のプロ棋士まで

角頭歩戦法の起源は、坂田三吉（のち贈名人・王将）が、大崎熊雄との香落戦で初めて用いたことに遡ります。初手△3二銀と指し、▲7六歩△2四歩と角頭歩を突いたこの一局は、坂田の敗戦に終わりましたが、当時「古今第一の奇手」と評され、大きな衝撃を与えました。

その後、米長邦雄が四段時代に先手番で2局指し、平手戦で角頭歩を突いた最初の棋士となりました。米長は、角頭歩戦法を研究し、その実践例を残しました。しかし、その勝率は必ずしも高くないため、奇襲戦法として扱われています。

1975年の王将戦では、米長邦雄が角頭歩戦法を採用しましたが、中原誠王将の△4四歩により奇襲は不発に終わっています。この事実は、角頭歩戦法が必ずしも成功するとは限らないことを示しています。

主要な指し方と分岐

角頭歩戦法の基本的な指し方は、初手▲7六歩に対し、△3四歩と応じ、▲8六歩と角頭に歩を突くことから始まります。その後は、後手の対応によって様々な分岐が生じます。

例えば、△8四歩とされると、▲2二角成△同銀と角を交換し、▲7七桂と進めることができます。この後、角換わり風にすることもできますし、振り飛車を目指すことも可能です。

また、後手が△8七角と角を打ってきた場合、▲6五角と打ち、4三角成を狙う展開になります。後手の対応によって、角銀交換、あるいは▲4三角成と成り込む展開へと進んでいきます。これらの局面では、先手が優勢に立つことが多いです。

角道を止められた場合は、▲6六角と上がり、向かい飛車に転換することもできます。

後手角頭歩

後手番でも角頭歩戦法は可能です。初手▲7六歩△3四歩▲2六歩に対して、△2四歩と突くのが後手角頭歩です。この場合、先手の▲2五歩に対しては、△同歩▲同飛△8八角成▲同銀△3三桂と、後手が積極的に攻めていく展開となります。

後手角頭歩は、先手が飛車先を交換するために歩を突いてくることを利用し、その隙を突いて攻め込む戦法です。しかし、プロ棋士の間でも実践例は少なく、研究は進んでいません。

2016年の王位戦では、松本佳介対田中悠一戦で同様の展開が見られましたが、先手がわずか20手で投了しています。これは後手の△4五桂以降の指し方に、先手が対応できなかった可能性を示唆しています。

榎本流：心理戦も駆使する角頭歩戦法

米長邦雄に次いで角頭歩戦法を用いたのが、榎本というアマチュア棋士です。榎本流の特徴は、後手番で2手目に△2四歩と突く点にあります。これは、相手を心理的に揺さぶり、終盤戦に持ち込むための戦略です。榎本は、相手の表情や時間の使い方を巧みに操り、心理戦を駆使することで角頭歩戦法の有効性を高めました。

榎本流は、角頭歩を突くタイミングによって、相手の心理的な動揺を誘う効果が変化することを示しています。

その他：様々な実践例と分析

角頭歩戦法は、プロ棋士やアマチュア棋士の間で様々な実践例があり、その有効性や危険性が検証されています。いくつかの棋譜分析やプロ棋士の意見を参考にすると、角頭歩戦法は必ずしも常に有利になるわけではなく、相手の対応や状況に応じてその効果が大きく変わる、高度な戦法であることが分かります。

参考文献

将棋奇襲〈1〉角頭歩戦法 米長邦雄 山海堂 ISBN 978-4381000217
米長の将棋〈6〉奇襲戦法 米長邦雄 平凡社 ISBN 978-4839914882
MYCOM将棋文庫DX 米長の将棋 6 米長邦雄 毎日コミュニケーションズ ISBN 978-4839914882
超攻撃的振り飛車 新生・角頭歩戦法(マイナビ将棋BOOKS)

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