計量国語学会

計量国語学会（けいりょうこくごがっかい、英語名：The Mathematical Linguistic Society of Japan）は、1956年12月15日に設立された日本の学術研究団体です。数理的な方法論を国語研究に応用し、その進歩を目指すとともに、言語に関連する様々な科学分野の発展に寄与することを目的として活動しています。

設立の経緯

学会の設立は、当時の日本の国語学界における特定の状況を背景としています。1948年末に創立された国立国語研究所では、確率論に基づく新しい統計学の手法が研究に導入され始めていました。また、それ以外の研究者の中にも、文体論や通信理論といった数理的な視点から言語を分析する試みが見られるようになっていました。しかし、こうした数理的な手法を用いた研究を発表し議論する場が極めて限られていたのが実情でした。既存の国語国文関係の専門誌に投稿しても、肝心な数理的な議論の部分は大幅に省略されたり、注記に圧縮されたりするしかなく、ましてや研究方法そのものを論じた論文はほとんど受理されない状況でした。このような発表機会の不足という共通の課題意識を持つ研究者たちが、たびたび意見交換を重ねた結果、数理的な国語研究のための専門学会を設立する運びとなりました。

名称の選定

学会の名称については、設立大会でいくつかの案が議論されました。「計量国語学研究会」「言語数学研究会」「国語数学会」「数量言語学研究会」などが候補に挙がりましたが、最終的に和名は「計量国語学会」に決定しました。一方、英語名は "The Mathematical Linguistic Society of Japan" となり、和名とはやや異なります。この違いには意図があり、将来的に統計学だけでなく、数学の多様な分野の手法が国語研究に応用される可能性を見越したためとされています。同時に、設立当時は「計量」という言葉の方が国内の研究者にとって馴染みやすく、抵抗が少ないだろうという判断も働いたと言われています。

組織としての位置づけ

計量国語学会は、特定の学術分野に特化した単独の学会として位置づけられています。また、日本の学術振興に貢献するため、日本学術会議の協力学術研究団体としても認められています。

主な刊行物

学会は、研究成果の発表と普及のため、いくつかの重要な刊行物を発行しています。

学会誌『計量国語学』（Mathematical Linguistics）
1957年に創刊された学会の機関誌です。計量国語学分野における最新の研究論文が掲載されており、厳正な査読を経て採録されます。年間4回の頻度で発行され、この分野の研究者にとって主要な情報源となっています。

『計量国語学事典』
学会創立50周年を記念する事業として企画され、2009年11月に朝倉書店から刊行されました。この事典は、計量国語学の定義とその研究の歴史を概観した後、具体的な計量分析の手法について解説しています。さらに、計量的なアプローチが適用される日本語学の各分野、例えば音声・音韻、文字・表記、語彙、文法・意味、文章・文体、社会言語学、方言学、国語史、日本語教育、そして日本語処理などにおける研究課題について、具体的な研究事例を参照しながら詳細に説明されています。計量国語学の全体像を把握するための基礎的な情報源として重要な役割を果たしています。

* 『データで学ぶ日本語学入門』
学会創立60周年記念事業として企画されたこの入門書は、2017年3月に同じく朝倉書店から出版されました。データに基づいた日本語研究をこれから始める人が、その基本的な考え方や手法を理解できるよう工夫されています。各章の冒頭には、章のテーマを示す「問い」に対する「答え」となる図表がまず提示されています。その図表がどのようなデータに基づいているのか、そしてそのデータから何を読み解くことができるのかが、丁寧に解説されています。これにより、読者は計量的な視点からの分析結果とその解釈を一目で理解しやすい構成となっています。日本語学の研究においてデータを活用することの重要性とその実践方法を学ぶための入り口となる一冊です。

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