討論 三島由紀夫vs.東大全共闘―美と共同体と東大闘争

討論 三島由紀夫vs.東大全共闘

この討論会は1969年5月13日、東京大学教養学部で開催されました。著名な作家である三島由紀夫が、当時の学生運動の先頭に立つ東大全共闘との間で繰り広げた議論は、彼の晩年の思想を知る上で欠かせない重要な出来事となっています。約一千人の学生が集まり、午後2時から約2時間半にわたる熱い議論が展開されました。

概要

このイベントは、東大全学共闘会議駒場共闘焚祭委員会の主催によって実現しました。前日から行われていた「東大焚祭」の一環として招かれた三島は、学生たちとの意見交換を通じて、社会と文化について深い考察を共有しました。討論内容は、全14テーマにわたり、三島が持つ独自の視点が色濃く反映されています。

討論のテーマ

討論のテーマには、「われわれはキチガイではない」と題された議論から始まり、「自我と肉体」、「他者の存在とは？」、「階級闘争と自然」、「持続と関係づけの論理」、「天皇と民衆をつなぐメンタリティ」などがありました。さらに、美とは何か、天皇制の意味、社会におけるダイナミズムについての深い考察が展開されました。

特別なエピソード

三島の到着前、場内はすでに熱気であふれていました。彼が到着した際、玄関でどこに入ればよいか分からず、手持ち無沙汰であったというエピソードも話題となりました。また、彼はのどが渇き水を頼んだものの、手元に届くまで20分もかかったと語っています。こうした彼の思考や感情は、討論の真剣さと共に今日のコンテクストでも強い共鳴を呼んでいます。

三島は討論の前に、はっきりとした警護なしに参加することを決意しました。彼は暴力を振るわれる可能性のある状況でも、自身の信念を貫くために短刀を持参し、覚悟を決めて議論の場に臨んだのです。場内では、楯の会のメンバーが彼の安全を守るために潜伏し、警視庁の私服の刑事も隠密に観察していたと伝えられています。

反響

討論会の様子は、当時のメディアでも大きな関心を集めました。主要な新聞やテレビでも報道され、大衆に深い印象を与えました。また、この討論の内容は後に書籍としてまとめられ、新潮社から刊行されたその本はベストセラーとなり、三島は印税で楯の会のメンバーの夏服を誂えたとされています。これによって、彼の思想がさらに広がりを見せました。

評価と解釈

三島と全共闘の議論は、平行線をたどる事例となりましたが、彼の考えは思考の枠を超えた議論を生み出しました。彼は全共闘のメンバーに対し、日本の歴史や文化の深層を理解することの重要性を訴えかけ、彼らの思考に対する新たな視座を提示しました。

保阪正康は、全共闘が三島の論理を理解できなかったことで彼が失望したと指摘しています。それでも、この討論は三島にとって貴重な交流であり、彼が語った「天皇と諸君が一言言ってくれれば、私は喜んで諸君と手をつなぐ」という言葉には、今なお連帯の感覚が漂っています。

この討論会は、三島由紀夫の思想を掘り下げ、彼が直面した社会の矛盾とその背景を理解するための重要な資料として、現代においても価値を持ち続けています。

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