記念樹事件

記念樹事件とは

記念樹事件は、1998年に勃発した著作権侵害訴訟です。この訴訟は、小林亜星氏の作曲した『どこまでも行こう』と、服部克久氏の作曲した『記念樹』という2つの楽曲を巡り、著作権法上の「編曲」の概念が争点となりました。

発端

小林亜星氏は、服部克久氏が作曲した『記念樹』（フジテレビの番組『あっぱれさんま大先生』のエンディングテーマ）が、自身の作曲した『どこまでも行こう』（ブリヂストンのCMソング）の盗作であると主張しました。

これに対し、服部克久氏は盗作ではないと反論し、両者の主張は平行線を辿りました。この対立を背景に、小林亜星氏と『どこまでも行こう』の著作権を持つ金井音楽出版は、服部克久氏に対して損害賠償を求める訴訟を提起しました。

裁判の経緯

一審判決 (東京地方裁判所)

第一審では、両曲の類似性は認められたものの、全体としての同一性は否定され、小林氏側の請求は棄却されました。

控訴審判決 (東京高等裁判所)

小林氏側は控訴審で、複製権侵害の主張を取り下げ、編曲権侵害を争点としました。
東京高等裁判所は、両曲のメロディーに「表現上の本質的な特徴の同一性」を認め、服部克久氏が『どこまでも行こう』に依拠して『記念樹』を作曲したと認定しました。
その結果、小林氏の著作者人格権侵害と金井音楽出版の編曲権侵害を認め、服部克久氏に約940万円の損害賠償を命じる判決が下されました。

最高裁判所の決定

服部克久氏は最高裁判所に上告しましたが、最高裁は上告を受理せず、高等裁判所の判決が確定しました。これにより、『記念樹』の作曲が著作権法違反であることが確定しました。

裁判の影響

この裁判は、音楽著作権に関する重要な判例となりました。特に、著作権法における「編曲」の解釈について、裁判所が具体的な判断を示したことは、音楽業界に大きな影響を与えました。

服部克久氏は、盗作が認定された後、日本音楽著作権協会 (JASRAC) の理事を辞任しました。
フジテレビジョン、フジパシフィック音楽出版、ポニーキャニオンに対し、損害賠償が命じられました。
フジテレビは『記念樹』の使用を中止し、JASRACも同曲の利用許諾を中止しました。
小林亜星氏が関係団体に利用中止を求めたため、『記念樹』は公の場で歌唱・演奏することが事実上不可能になりました。

関係者の死去と著作権

『記念樹』の作詞者である天野滋氏は2005年に、作曲者の服部克久氏は2020年に、そして『どこまでも行こう』の作詞・作曲者である小林亜星氏は2021年にそれぞれ亡くなりました。
著作権法上、これらの楽曲は、2092年に著作権保護期間が満了し、パブリックドメインになる見込みです。

著作権法における「編曲」とは

著作権法27条は、著作物（音楽の著作物）を編曲する権利を著作者に専有させていますが、「編曲」を定義した規定はありません。
記念樹事件は、著作権法における「編曲」の意義について、裁判所が解釈を示した点で重要な事件です。

この事件を通じて、楽曲の著作権を尊重すること、そして、著作権法における「編曲」の概念を理解することの重要性が再認識されました。この判例は、今後の著作権に関する訴訟において、重要な判断基準となるでしょう。

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