著作者人格権

著作者人格権：著作者の精神を守る権利

著作者人格権とは、著作権の一部として、著作者である個人の尊厳や名誉を守るための権利です。絵画、小説、音楽、映画など、著作者の創造性が反映されたあらゆる著作物を対象とし、その精神的な利益を侵害から保護することを目的としています。

著作者人格権は、著作者の「心」を守る権利であるのに対し、著作物を経済的に保護する権利は著作財産権と呼ばれます。両者は密接に関連しており、著作物の不正利用は、同時に著作者人格権と著作財産権の両方を侵害する可能性があります。例えば、個人の日記を無断で複製して配布する行為は、著作財産権における複製権の侵害だけでなく、著作者人格権における公表権の侵害にも該当します。

著作者人格権と著作財産権の一つの大きな違いは、権利の譲渡可能性です。著作財産権は、土地や建物と同様に、他人へ譲渡したり相続したりできます。しかし、著作者人格権は、原則として譲渡できません。これは、著作者人格権が著作者の個人的な権利、いわば「人格の一部」とみなされるためです。複製権や出版権といった著作財産権を第三者に売却しても、著作者人格権は消滅せず、著作者自身を守り続けます。これを「一身専属性」と呼びます。

ただし、著作者が自身の意志で著作者人格権の不行使を契約する事は、一部の国で認められています。これは、著作者人格権の保護を重視しすぎると、著作者が経済的に不利になる可能性があるためです。例えば、著作者人格権を譲渡できないと、ライセンス契約が成立しない、あるいは著作者にとって不利な条件を飲まざるを得ないといった事態も考えられます。

さらに、著作者人格権は、原著作物だけでなく、二次的[[著作物]]（翻訳、映画化、編曲など）にも及ぶ点が重要です。例えば、ある小説を翻訳出版する場合、翻訳者から許諾を得たとしても、原作者から許諾を得ずに出版すれば、原作者の公表権を侵害することになります。

著作者人格権の死後における扱い

多くの国では、著作者人格権は著作者の死後も一定期間存続するとされています。これは、著作者の死後も、その作品に対する名誉や尊厳を守ることが重要であるという考えに基づいています。死後の名誉棄損行為は、遺族にも法的措置が取られる可能性があります。

著作者人格権の制限と例外

著作者人格権は、すべての著作物や著作者を無条件に保護するわけではありません。職務著作物（会社の命令で作成された作品）など、著作者と異なる者に著作権が帰属する場合、氏名表示権以外の著作者人格権は制限される場合があります。また、コンピュータプログラムのように、芸術性よりも実用性が重視される著作物では、同一性保持権の制限が大きくなる傾向にあります。

さらに、英米法系の国では、伝統的に著作財産権を重視する傾向があり、著作者人格権の保護範囲が狭い国もあります。

著作者人格権の種類

著作者人格権には、主に以下の種類があります。

公表権: 著作者の意思に反して、未発表または未完成の著作物が公表されない権利。
氏名表示権: 著作物の公表において、著作者名を表示するかどうか、どのように表示するのかを決定する権利。著作者の意思に反して、無名または偽名で公表されることを防ぎます。
同一性保持権: 著作物が無断で改変されない権利。改変の範囲については、著作物の性質や利用目的によって判断が異なります。パロディなど、表現の自由との兼ね合いも考慮されます。
名誉声望保持権: 著作者の名誉や尊厳を侵害するような、著作物の利用方法を禁止する権利。例えば、名画を風俗店の看板に使うことは、名誉声望保持権侵害に該当する可能性があります。
* 出版権廃絶請求権・修正増減請求権: 出版済みの著作物について、著作者が不備に気づいた場合、出版の中止や修正を求める権利。ただし、出版者への損害賠償が前提となります。

国際条約と各国の対応

著作者人格権の保護は、ベルヌ条約、TRIPS協定などの国際条約でも認められています。しかし、各国の国内法で、具体的な保護の範囲や侵害に対する対応は異なります。日本、フランス、アメリカ合衆国など、主要国の対応について見ていきましょう。

日本: 著作者人格権の一身専属性を法律で定めており、相続は認められていません。ただし、著作者の死後も、2親等内の親族が権利行使を行うことができます。著作者人格権の放棄は、原則として認められていません。

フランス: 著作者人格権は、著作財産権よりも優先されるとされ、死後も永久に存続します。譲渡は認められませんが、相続は認められています。同一性保持権よりも広い範囲を保護する「尊重権」という概念も存在します。

アメリカ合衆国: 視覚芸術作品についてのみ、著作者人格権の一部を認めています。他の種類の著作物については、不正競争法など、著作権法以外の法律で保護される場合があります。著作者人格権の放棄は可能です。

まとめ

著作者人格権は、著作者の精神的な利益を守るための重要な権利です。その保護の範囲や具体的な内容は、国際条約や各国の法律によって異なり、判例も重要です。著作物を扱う際には、著作者人格権に関する法的な知識を持つことが不可欠です。

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