試製九八式中戦車

試製九八式中戦車 チホ

試製九八式中戦車 チホ（しせいきゅうはちしきちゅうせんしゃ ちほ）は、日本陸軍参謀本部によって開発され、1939年7月に完成した試作中戦車です。この戦車の「チホ」という名称は、日本の中戦車における5番目のタイプであることを示しています。

開発の背景

チホの開発は、八九式中戦車の後継車を巡る議論の中で進められました。当時は軽量で安価な戦車を求める参謀本部と、より高性能な中戦車を支持する運用側との間で対立が生じていました。軽量戦車としての「チニ」が推奨されましたが、日中戦争の勃発に伴い予算が増額され、より高性能なチハ（後の九七式中戦車）が採用されることになりました。にもかかわらず、参謀本部は自身の考えを保持し、軽量安価な車両としてチホの開発を進めました。

チホの完成は昭和14年（皇紀2599年）で、その呼称は「九九式」とすべきところが、「九八式」という非公式名が使われました。『四研史』によると、1940年8月には油圧操向の試作車が2輌就工し、1941年にはさらに2輌が完成しました。

外観と構造

チホ車の外観は、九七式中戦車や一式中戦車に似た砲塔を持ちますが、識別ポイントとして砲塔後部に機銃やキューポラがないことが挙げられます。上面は平らで、砲塔前方左側に車載機関銃が装備されています。また、47mm戦車砲を搭載し、転輪は片側5つ、サスペンションにはシーソー式が採用されています。車体後部にはソリ（尾体）が装備され、マフラーは後部左側に位置しています。

特に注目すべきなのは、この戦車が採用した47mm戦車砲の貫通力です。この砲は長砲身で高初速という特性を持ち、従来の歩兵支援戦車にはない対戦車に特化した能力を意識していました。日々の戦局が変化する中で、当時の戦車開発のニーズが高まり、最大の火力を持つ戦車砲の重要性が増していました。

火力の設計

昭和14年3月に開かれた戦車研究委員会では、次期中戦車の搭載砲の口径について、従来の57mmから47mmまで低下する可能性があることが議論されました。これはノモンハン事件やポーランド侵攻といった実戦での経験から、敵戦車への対抗能力を高める必要性が認識されたからです。こうした背景を受け、チホの設計は火力面においても既存の戦車との差別化を図ることとなりました。

チホに搭載された試製47mm戦車砲は、様々な研究の成果を元に開発され、1940年から試験が行われました。特に特徴的なのは、同軸機銃を搭載することを意図した設計が進められた点です。これは、主砲の使用時における敵に対する防御力の強化を目指したものです。

エンジンと機構

チホに搭載される予定だったエンジンについては、参謀本部案と技術本部案で異なる提案がなされました。参謀本部案では、最大出力120馬力の空冷ディーゼルエンジンを採用し、整備のしやすさを考慮したものでした。一方、技術本部案では150馬力のディーゼルエンジンが提案されました。

さらに、チホは国産戦車として初めて油圧操向装置を搭載し、操作性の向上を図ることが試みられました。これにより、操縦時の負担は軽減されましたが、装甲防御力に関する課題は解決されていませんでした。

開発の終息

ただし、チホは装甲防御力や機動力に関する問題から開発が進みませんでした。ノモンハン事件での戦闘経験を通じて国産戦車の課題が浮き彫りになり、更なる改良が求められたため、チホの研究は打ち切られ、その後はチヘ車（一式中戦車）の開発へと移行しました。結果として、チホは制式採用されることはありませんでした。

参考文献

• - 原乙未生 監修、竹内昭 著 『日本の戦車』 出版協同社、1978年
• - 『四研史 ： 第四陸軍技術研究所の歩み』 四研会、1982年
• - 佐山二郎「日本陸軍の火砲　歩兵砲　対戦車砲　他」ISBN 978-4-7698-2697-2 光人社NF文庫、2011年

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