詩を書く少年

『詩を書く少年』

『詩を書く少年』は、三島由紀夫による自伝的な短編小説で、詩作に没頭した少年が自己の本質を見つめ直す物語です。この作品は、15歳の少年が詩の天才として自己を信じ、詩を書くことの喜びに囲まれているとき、親しい先輩の恋愛に関する告白を通して自らの未熟さやナルシシズムを認識していく過程を描いています。三島自身が30歳を目前に控えた頃に、少年時代への回顧と文学の道を選んだ背景を考察する貴重な作品となっています。

発表経過

この作品は、1954年8月に雑誌『文學界』に発表され、翌年の1956年に角川書店から単行本として刊行されました。同書には他の短編も収録されており、1968年には新潮文庫版としても刊行されています。また、翻訳版も出版され、国際的にも知名度を増しています。

執筆動機

三島由紀夫が『詩を書く少年』を執筆した背景には、少年時代の幸福感を記録しておきたいという思いと、自らが詩人ではなく小説家になる道を選んだ経緯を書く必要性がありました。特に、詩人としての自己の理想と現実とのギャップを認識することが重要だと考え、作品を通じてその経験を表現しました。

主題

作品の中心的なテーマは、少年時代における言葉との関係や、三島の文学の出発点が描かれている点です。三島は『詩を書く少年』が自らの文学における重要な問題を此処に秘めていると主張し、さらに『海と夕焼』との関連性に触れながら、二つの作品が根本的には共通するテーマを持っていることを論じています。

あらすじ

物語は、15歳の少年が詩を書くことに夢中になり、その才能を周囲から称賛されることから始まります。彼は先輩のRと文芸部の仲間に支えられ、自らの詩の世界で至福を感じていました。しかし、Rからの恋愛相談をきっかけに、少年は自己の詩作や人生に対する見方が変わる瞬間を体験します。Rの恋愛の悩みは、少年にとって既知のものだったものの、Rの深い感情に触れることで、彼は自分の内面的な浅さに気づくのです。この一連の出来事を通じて、少年は自己認識を深め、詩人としての自分を見つめ直すことになります。

登場人物

• - 少年: 15歳の文芸部部員。詩を書くことで自分が天才であると信じ込んでいるが、現実の厳しさを知らない。
• - R: 先輩の文芸部員で、恋愛の苦悩を抱えている。彼の経験は少年にとって新たな視点をもたらす。
• - 学生監: 生徒たちから恐れられる存在。その教えは詩人としての理想を穏やかに否定する。

評価と研究

『詩を書く少年』は三島の少年時代を知る手掛かりとしてだけでなく、詩と小説の関係を考える際にも重要な作品とされています。多くの批評家がこの作品を評価し、三島の文学全体にわたるテーマや問題性を考察してきました。この作品は、三島文学における詩媒介としての探求を反映し、彼の後の作品においても影響を与えています。

三島由紀夫はこの作品を通じて、詩人としての理想に生きることがどれほど困難であるかを描き出し、また現実との葛藤を抱える自身の文学的なアイデンティティを確立しました。作品の最終的な意義は、彼の文学的探求の始まりを示すものであり、その後の彼の作品に一貫したテーマを持たせることとなります。

もう一度検索