誹風柳多留

誹風柳多留：江戸時代の庶民の声を伝える川柳集

『誹風柳多留』（はいふうやなぎだる）は、江戸時代中期から幕末にかけて、ほぼ毎年刊行された川柳の句集です。通称「柳多留」とも呼ばれ、1765年から1840年までの間に167編が出版されました。編者である呉陵軒可有をはじめ、多くの編集者や著名な評者、序文執筆者が関わっており、その中には柳亭種彦、十返舎一九、葛飾北斎といった名だたる人物も含まれています。

歴史と編纂

初編は1765年（明和2年）7月に刊行され、点者である柄井川柳が「万句合」で選定した句が掲載されています。特筆すべき点は、当時の慣習とは異なり、前句を省いて付句のみを掲載している点です。その後、毎年1冊刊行され、31編以降は年10冊程度のペースで刊行されました。編者である呉陵軒可有の死後は、他の編集者が引き継ぎ、最終的には月並会の作者の句を集めたものとなりました。

初期の作品は高い文芸的価値が認められており、中期・後期の作品も当時の風俗を知る貴重な資料として評価されています。特に、柄井川柳が関わった24編までは特に高い評価を得ています。

寛政の改革や天保の改革の際には、幕府の検閲を受け、過去に出版された内容が修正された改刷本が刊行されるなど、社会情勢を反映した変化も見て取れます。柄井川柳の号である「川柳」が宗家として受け継がれたことから、『誹風柳多留』刊行期間の川柳は「古川柳」と呼ばれることが多くなりました。

代表的な句

『誹風柳多留』には、庶民の生活や世相を反映した数々の名句が残されています。いくつか例を挙げると、

「本降りになって出ていく雨宿り」
「これ小判たった一晩ゐてくれろ」
「かみなりをまねて腹がけやっとさせ」
「寝ていても団扇のうごく親心」
* 「役人の子はにぎにぎをよく覚え」

などがあります。これらの句は、ユーモラスで風刺的な表現の中に、当時の社会状況や人々の感情が巧みに表現されており、現代においても高い芸術性と興味深さを保っています。

刊本と研究

『誹風柳多留』は、現在でも多くの研究者によって研究されており、様々な刊本が出版されています。岩波書店から刊行された山沢英雄による校訂版や、三省堂から刊行された岡田甫による校訂版など、複数の校訂版が存在し、それぞれに特色があります。また、近年では、より多くの読者にとってアクセスしやすいよう、現代語訳なども出版されています。これらの刊本を通して、『誹風柳多留』は現代の人々にも親しまれ、江戸時代の文化や社会を知る貴重な資料として活用されています。

関連書籍

『誹風柳多留』に関する研究書や解説書も数多く出版されており、様々な角度からこの作品を読み解くことができます。これらの書籍は、単なる句集の解説にとどまらず、当時の社会情勢や文化、人々の生活などを多角的に考察する上で貴重な資料となっています。

まとめ

『誹風柳多留』は、単なる川柳集ではなく、江戸時代の庶民の生活や世相、文化を深く理解するための貴重な資料です。そのユーモラスで風刺的な表現、そして当時の社会情勢を反映した歴史的背景は、現代の私たちにとっても大きな魅力となっています。今後も多くの研究者や読者によって、その価値が再認識され、より深く理解されていくことでしょう。

もう一度検索