調査隊 (陸上自衛隊)

陸上自衛隊調査隊：その役割と変遷

陸上自衛隊調査隊（JGSDF Security Intelligence Corps）は、かつて陸上自衛隊に存在した組織で、その主な任務は防諜活動でした。この組織は、防衛庁長官直轄の中央調査隊と、各方面隊直轄の方面調査隊で構成されていました。

組織の概要と再編

旧調査隊組織は、指揮系統と業務系統が混在していたため、2000年代初頭に発生したボガチョンコフ事件や海幕3等海佐リスト事件などの秘密保全に関する事故を受け、既存の体制では十分な保全が確保できないと判断されました。その結果、中央に情報保全隊が編成され、各方面隊の調査隊は隷属することになりました。この再編により、秘密保全体制の強化が図られました。この際、隷下部隊に「方面」と冠しながらも方面の直轄ではない、同様の編成は陸上自衛隊警務隊や会計監査隊などにも見られます。

調査隊の隊長は、中央調査隊長が1等陸佐（一）、方面調査隊長が1等陸佐（二）、調査派遣隊長が3等陸佐から1等陸尉で構成されていました。

任務：情報収集と対情報活動

1960年（昭和35年）に陸上幕僚監部が作成した『治安行動（草案）』によると、調査隊は「対情報活動」を主に行い、出動部隊の行動を支援するとされていました。また、派遣を受けた部隊は、対情報活動に関して調査隊と密接に連絡を取り、専門技術を必要とする事項に関しては積極的に活用することが求められました。

調査隊は、警察の協力を得て『警備地誌』を作成していました。この『警備地誌』は、陸幕が全国単位で作成した「陸幕地誌」、各方面隊が作成した「方面地誌」、そして各方面隊内で区域分けして作成した「要域地誌」から構成され、自衛隊の行動に際して重要と判断される地域の地理的特性や軍事的観点を詳細に記録していました。具体的には、地形、交通、航空、都市、通信といった第一部から、天候や気象の第二部、政治、経済、資源、社会、人文に関する第三部、そして警察、消防、重要施設をまとめた第四部まで、詳細に分類されていました。

しかし、『警備地誌』は単なる地理情報に留まらず、自衛隊が戦闘作戦や治安出動を行う際に国民を「敵」と「味方」に区別するための人別帳としての側面も持っていました。全国の警備地域ごとに、日本共産党や労働組合、地方議員の発言、在日朝鮮人の思想や行動など、敵性分子を詳細に調査し、リスト化していたとされています。このような活動は、戦前の旧陸軍憲兵隊が作成していた情報収集活動と類似しており、その情報収集活動における留意事項として、地域の特性、暴徒の状況、住民の状況を詳細に調査するよう指示されていました。

これらの活動は、自衛隊法施行令にも明記されており、各方面隊の警備区域において、『警備地誌』の調査・作成や警備情報の収集を行うことが義務付けられていました。

労働組合や市民活動の監視

1954年（昭和29年）には、自衛隊秋田駐在部隊の調査班が、秋田県庁労政課に対し、労組の闘争状況や左右の区別について質問した事例が報道されました。自衛隊側は「治安維持上必要」と説明しましたが、社会党議員からは調査活動に対する質問が提起され、調査班の主な任務が『警備地誌』の作成にあると答弁されました。さらに、調査班が労働組合の動向や個人の政治活動を調査している可能性についても言及されました。

その後、調査隊の後継である情報保全隊が、日本共産党や社会民主党、ジャーナリスト、市民団体などを監視していたことが発覚し、2007年には、監視活動による人権侵害を訴え、写真家らが損害賠償を求める訴訟を起こす事態となりました。

組織の沿革と廃止

1960年1月14日に、北部、東北、東部、中部、西部の各方面調査隊が編成されました。しかし、2000年5月には中央調査隊檜町派遣隊が廃止され、2003年3月27日には中央調査隊及び各方面調査隊が廃止され、陸上自衛隊情報保全隊が新たに編成されました。旧東部方面調査隊市ヶ谷派遣隊は、本部付情報保全隊として再編されました。

廃止時の編制

廃止時の調査隊は以下の通りです。

陸上自衛隊中央調査隊（市ヶ谷駐屯地）
北部方面調査隊（札幌駐屯地）
東北方面調査隊（仙台駐屯地）
東部方面調査隊（朝霞駐屯地）
中部方面調査隊（伊丹駐屯地）
西部方面調査隊（健軍駐屯地）

陸上自衛隊調査隊は、その情報収集活動と秘密保全体制において、様々な課題を抱えていた組織でした。その活動は、現代の自衛隊のあり方にも大きな影響を与えています。

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