論創ミステリ叢書

論創ミステリ叢書は、論創社によって2003年10月から刊行されている、日本の推理小説を深く掘り下げた貴重な叢書です。日本の推理小説の草創期から第二次世界大戦後までの、多くの作家たちの作品を網羅的に収録している点が大きな特徴です。

この叢書が特筆すべき点は、単に有名な探偵小説家の作品だけを集めているわけではないという点です。従来、単行本としてまとめられることが少なかった作家の作品を、丁寧に編集し、一冊にまとめあげています。そのため、これまで知られていなかった作品や、再評価されるべき作品が数多く含まれています。単なる復刻ではなく、新たな発見や再解釈を促すような編集がなされていると言えるでしょう。

さらに、探偵小説家として一般的に認識されていない作家にも光を当てている点が注目に値します。小説家の徳冨蘆花や落語家の三遊亭円朝といった、意外な顔ぶれも収録されており、推理小説というジャンルを多角的に捉え直す機会を提供しています。彼らの作品を通して、推理小説という枠を超えた、日本の文学史における多様な表現様式に触れることができるでしょう。

叢書全体の監修は、推理小説研究の第一人者である横井司氏が担当しています。横井氏の深い知識と鋭い洞察に基づいた解題は、各作品をより深く理解するための重要な手がかりとなります。特に断りのない限り、収録されている作品集の解題はすべて横井司氏によって執筆されています。

2011年の第5期配本後、一時的に刊行が休止されましたが、2012年4月に別巻を刊行し、同年5月よりシリーズは再開されました。この再開によって、さらに多くの読者がこの貴重な叢書に触れる機会を得ることとなりました。

また、この叢書には『中村美与子探偵小説選』や『西尾正探偵小説選』といった作品集の刊行後、新たに発見された作品などを解説した「補遺」も存在します。これら補遺は、作品に関する新たな知見を提供し、叢書全体の価値を高める役割を果たしています。

論創ミステリ叢書は、単なる推理小説のアンソロジーに留まりません。日本の推理小説の歴史、そして日本の文学史そのものを深く理解するための、極めて重要な資料と言えるでしょう。多くの未発掘の作品との出会いを提供し、推理小説ファンのみならず、日本の文学に興味を持つすべての人にとって、必読のシリーズと言えるのではないでしょうか。

関連シリーズとして「論創海外ミステリ」も存在しており、こちらも論創社のミステリ関連出版物の充実ぶりを物語っています。論創社のウェブサイトでは、論創ミステリ叢書に関するより詳細な情報が得られます。

もう一度検索

【記事の利用について】

タイトルと記事文章は、記事のあるページにリンクを張っていただければ、無料で利用できます。
※画像は、利用できませんのでご注意ください。

【リンクついて】

リンクフリーです。