論点のすり替え

論点のすり替え

論点のすり替え、または「ignoratio elenchi」は、非形式的誤謬の中でも特に重要な概念です。この誤謬は、見かけ上は妥当な論証を用いるものの、実際には本来の問題から逸れている場合を指します。アリストテレスは、この論理的誤謬を指摘し、論点のすり替えが反駁における著名な間違いであると認識していました。

語源と意味

「ignoratio elenchi」というラテン語は、直訳すると「反駁を知らないこと」を意味し、ギリシア語の「έλεγχος」（elenchi、反駁の意）から派生しています。この誤謬は、相手の主張に対して論理的な攻撃を行おうとした際に生じる誤解を示しているため、議論自体を本質的に見失ってしまう危険性があります。アリストテレスはすべての論理的誤謬が論点のすり替えに還元できるとまで述べており、彼にとっては非常に深刻な問題だったのです。

論点のすり替えの事例

この誤謬を理解するためには、具体的な例も考慮する必要があります。たとえば、ある人が環境問題について議論している際に、別の問題、例えば経済政策に話を移してしまうといったケースが当てはまります。ここで、元の話題に関連した反論が行われていれば問題はないのですが、全く関係のない話題にそれることで、意見がクリアに伝わらないことになります。これは、相手の主張と関係のない議論を展開することで、本来の討論の焦点から外させる効果を持っています。

類似の誤謬

論点のすり替えに近い概念として「燻製ニシンの虚偽」（Red herring）が存在します。これは意図的に論点を逸らすことで、議論を混乱させようとする行為を指します。「燻製ニシン」という不思議な言葉は、猟犬の訓練に由来するとも言われていますが、実際にはそのような方法が行われることは少なく、その詳細な由来については未だに議論を呼んでいます。

また、「お前だって論法」（Tu quoque）も、この類似誤謬の一例です。これは相手の主張を攻撃する際に、相手自身も同様のことを行っているという点を指摘するものですが、しばしば人身攻撃を伴うことで、議論の目的自体が曖昧になります。これにより、相手の意見を貶めながら、実質的には議論の進展が妨げられてしまいます。

複数の誤謬の関連性

「論点のすり替え」を含む多くの誤謬は、実際には相互に関係しており、ひとつの議論の中で複数の誤謬が発生することも珍しくありません。そのため、議論の際には冷静で論理的なアプローチが求められます。これにより、議論が偏らず、真の理解へと導くことが可能になります。

結論

論点のすり替えの理解は、論理的議論を行う上で非常に重要です。この誤謬を避け、適切な議論を展開するためには、常に自らの論理が本質的なテーマに焦点を当てているかを確認する必要があります。アリストテレスの教えを引き継ぎ、より明確で効果的な議論を目指すことが、現代においても大変重要な課題でしょう。

もう一度検索