謡

謡（うたい）についての詳述

謡とは、能楽における声楽部分を指します。この言葉は、元々「うたう」という動詞から派生した名詞であり、特に詩や小唄などとは区別されています。江戸時代以前は単に「謡」と呼ばれ、多用されるようになったのはその後のことです。この表現の背後には、能に秘められた深い文化と歴史があります。

能楽の三要素

能は、舞、謡、囃子という三つの要素から成り立っています。謡は詩的台詞とコーラスである地謡（じうたい）を含む部分で、能の中でも特に言語によって表現される重要な要素といえます。謡は独特のリズムと旋律を持ち、観客に語りかける力を秘めています。そのため、独立した芸能としても鑑賞され、楽しむことができるようになりました。

謡の普及と素謡

室町時代の終わり頃から、能は舞台だけでなく様々な場所でも盛んに行われるようになり、一般にも広まりました。この現象は「素謡」と呼ばれ、観客や愛好者が日常の中で謡を楽しむ場を提供しました。江戸時代以降も、この風潮は続きました。特に、町人が猿楽を禁じられると、謡がその代わりとしてさらに人気を博しました。このようにして、謡は身分を問わず、多くの人々に愛されるようになったのです。

師弟関係と謡の伝承

謡の熱烈な愛好者たちは、専門の師匠について稽古を重ねました。このような修行の場として、謡宿（うたいやど）の存在が重要でした。ここでは、町人たちが積極的に謡うことを楽しむ姿が見られました。この時期には、能役者たちも謡の指導者としての役割を果たすようになったのです。初期には地謡がワキ方によって行われることが一般的でしたが、その後シテ方にその役割が移行していきました。

明治以降と現代の謡

明治時代に入ると、能楽や謡に対する関心は一時的に変動しましたが、基本的にはその伝統が続いています。現代でも、謡の愛好者は多く、特に素人弟子は能役者にとって重要な収入源となっています。九州地方では、特にお祝いの席で謡が演じられることがあり、結婚式などの特別な場では「お謡い三番」と呼ばれる形式でお祝いの謡が披露されます。これは新郎新婦の親戚が中心となり、祝福の気持ちを伝えるための重要な文化的役割を果たしています。

このように、「謡」は単なる能の一部であるだけでなく、広く多様な人々にとっての文化的な活動として、今なお深い愛され続けているのです。

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