議事妨害

議事妨害とは

議事妨害とは、議会において少数派の議員が、議院規則の範囲内で意図的かつ計画的に議事の進行を妨害する行為を指します。会期制を採用している議会では、会期終了と同時に審議中の議案が原則として廃案となるため、審議や採択に必要な時間そのものが交渉材料となり得ます。少数派は、この時間的制約を利用して多数派に譲歩を迫る戦術として議事妨害を用いることがあります。

各国の議事妨害

イギリス

イギリスでは、特にアイルランド選出議員など、議会内の少数派である地域政党の議員によって議事妨害が行われてきました。その歴史は長く、対策も整備されています。

1880年代には、アイルランド問題が紛糾し、アイルランド国民党の議員が長時間の演説による議事妨害を行った結果、議会の過半数の賛成で議事を打ち切る「ギロチン動議」の制度が導入されました。ただし、議長が公正な討論が続いていると判断した場合は却下されます。これは、議長が公正中立で少数派を尊重する慣習が根付いているイギリス議会ならではの仕組みと言えるでしょう。

20世紀後半には、定足数確認要求の乱発という議事妨害が用いられました。イギリス議会の場合、その確認の方法が煩雑であったことや、定足数以下でも審議が行われることが常態化していたことから、その効果は大きく、対策として定足数は採決時を除き事実上廃止されることになりました。

アメリカ

アメリカ合衆国では、議事妨害は特に「フィリバスター」（filibuster）と呼ばれています。これは、オランダ語で略奪者・海賊を意味する「vrijbuiter」に由来します。連邦議会上院で、演説を長時間続ける手法が採られます。

上院では議員の発言時間に制限が課されず、席に座らず立ったまま演説を続け、トイレなどで本会議場を出ないでいる限り、何時間でも演説し続けることが可能です。この伝統は1789年の第1回議会から続いており、良心に従って発言できる審議形式は、上院の誇りとなっています。

上院規則によれば、上院議員は本会議で何を演説してもよいことになっており、過去にはアメリカ合衆国憲法を序文から最後まで朗読したり、歌の歌詞や料理本のレシピを読み続けたり、聖書の朗読を演説し続けたりした事例があります。

理論的には、たった1人の上院議員でも議決に反対している場合は、フィリバスターにより審議を遅延させることが可能です。フィリバスターを止める手段として、上院の5分の3以上の議員（60人以上）が打ち切りに賛成した場合は、1時間以内に演説者は演説をやめなければならないという「討議終結決議」（クローチャー:cloture）があります。しかし、議会で可決されることは稀であり、議会の多数派が折れるか、演説者の体力が尽きるまで継続されることになります。

現在では、1975年の上院規則改正により「フィリバスターを宣言する」議員が議場にいるだけでフィリバスターが有効となるため、少数派と多数派が意見調整するための「手続き」的なフィリバスターがほとんどとなっています。実際に長い演説をするような光景は、少数になりつつあります。フィリバスターは極めて容易になり、2000年以降は1年あたり50回以上のフィリバスターが行われています。

フィリバスターの最長時間の記録は、ストロム・サーモンド議員による24時間18分です（1957年公民権法における議事妨害）。フィリバスターをする目的は、多数派からの譲歩を引き出すことです。

日本

日本の国政政党では党議拘束が厳しいため、ほとんどの内閣提出法案は、採決に付されれば与党の賛成多数で可決されます。そのため、ほとんどの議事妨害は野党側が与党側に対して行うものです。議事妨害で用いられる手法の代表例としては、以下のようなものが挙げられます。

質問攻め
審議中断
不信任決議案（動議）の提出
審議拒否
牛歩戦術
ピケ戦術

韓国

韓国では、1964年4月21日に当時国会議員を務めていた金大中元大統領が金俊淵議員の拘束同意案の可決を阻止するために約5時間19分のフィリバスターを行いました。

2016年には、テロ防止法に対する反対討論で、共に民主党と国民の党の38人の議員によって行われたフィリバスターが計192時間25分にも及びました。

まとめ

議事妨害は、民主主義的な議会運営において、少数意見を尊重し、議論を深めるための重要な手段の一つです。しかし、その濫用は議事の停滞を招き、国民の意思を反映する機会を損なう可能性もあります。各国の事例を参考に、議事妨害の適切な運用について議論を深めることが重要です。

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