讒言

讒言、誣告、そして虚偽の告発：歴史と法

「讒言（ざんげん）」とは、地位の高い者に対して、事実と異なる情報を伝え、特定の人物を陥れようとする行為です。「誣告（ぶこく）」や「讒訴（ざんそ）」とほぼ同義で、古くから社会問題として認識されてきました。権力闘争や私怨といった様々な動機に基づき、虚偽の告発によって、個人の名誉や社会的地位、さらには自由や生命さえも奪われる危険性があります。

誣告罪の歴史的変遷

日本の法制度において、誣告は古くから厳しく罰せられてきました。旧刑法では、「誣告及び誹毀の罪」として規定され、偽証罪と同様の処罰が科せられていました。明治時代の法体系では、虚偽の告発によって他人が刑事または懲戒処分を受ける場合、偽証罪に準じた扱いがなされていました。これは、虚偽の告発が司法制度の信頼性を損ない、社会秩序を乱す重大な行為であることを示しています。

具体的には、旧刑法（明治13年太政官布告第36号）第12節「誣告及び誹毀の罪」第355条において、「不實ノ事ヲ以テ人ヲ誣告シタル者ハ第二百二十条ニ記載シタル僞證ノ例ニ照シテ處斷ス」と定められていました。また、明治40年法律第45号第21章「誣告の罪」第172条では、「人ヲシテ刑事又ハ懲戒ノ處分ヲ受ケシムル目的ヲ以テ虚偽ノ申告ヲ為シタル物ハ第百六十九條ノ例ニ同シ」と規定され、偽証罪との関連性が明確に示されています。

現代の虚偽告訴等罪

現代の刑法（刑法第172条）では、「人に刑事または懲戒の処分を受けさせる目的で、虚偽の告訴、告発その他の申告をした者は、3月以上10年以下の懲役に処する」と、虚偽告訴等罪として規定されています。これは、旧法における誣告罪の規定を継承発展させたもので、虚偽の告発行為に対する罰則を明確化し、その重大性を改めて強調しています。単なる虚偽の申告だけでなく、刑事または懲戒処分という具体的な結果をもたらすことを目的とした虚偽の告発が対象となっており、より厳格な基準が設けられています。

虚偽の告発は、告発された者の人生に深刻な影響を与える可能性があります。逮捕・勾留、裁判による時間と費用の負担、社会的な信用失墜など、取り返しのつかない事態を招く危険性があるため、厳罰に処せられるのです。

関連事項

歴史上、讒言や誣告が大きな政治的事件を引き起こした例は少なくありません。「昌泰の変」のように、讒言によって多くの者が処罰されたり、権力闘争に利用されたりした事例は、虚偽の告発の危険性を改めて示しています。また、「姦臣」のように、権力者に近しい者による讒言は、政治の腐敗や社会不安を招く一因にもなり得ます。

さらに、「ローマ人への手紙」に見られるように、古代ローマにおいても、虚偽の告発や中傷は社会問題として認識されており、様々な文学作品や歴史書の中にその痕跡を見ることができます。これらの歴史的例証は、時空を超えて、虚偽の告発がいかに危険で深刻な問題であるかを示しています。

現代社会においても、インターネットの普及により、虚偽の情報が容易に拡散されるようになりました。名誉毀損や風評被害といった問題も深刻化しており、虚偽の告発に対する法的規制と社会的な意識向上がますます重要となっています。

もう一度検索