谷口稜曄

谷口稜曄の生涯と平和への歩み

谷口稜曄（たにぐち すみてる）は、1929年1月26日、福岡県糟屋郡志賀島村に生まれました。彼の名前には「光が届かない場所を隅々まで照らす」という意味が込められています。しかし、彼の幼少期は母の早逝や父の満州勤務といった困難に満ちていました。そのため、稜曄は長崎市の母方の実家で育ちました。

1943年、彼は淵国民学校を卒業し、本博多郵便局での勤務を開始します。1945年8月9日、稜曄は16歳の時に、郵便物を配達中に長崎で原爆に被爆します。爆心地から1.8kmの地点にいた彼は、強烈な爆風によって自転車が大破し、熱線によって背中と左腕に重度のやけどを負いました。彼はすぐに三菱重工の工場に避難し、簡易な手当てを受け、その後近くの山へと避難しました。

2日後、彼は救援列車で諫早へ運ばれましたが、そこでの治療は十分ではなく、遠縁の親戚の家に移されます。最終的に、長崎に戻り、1949年まで病院で治療を受け続けました。その間、彼は皮膚の移植手術など、何度も入院を余儀なくされました。

戦後、谷口は自らの被爆体験をもとに、核兵器廃絶に向けた活動を始めました。1960年代には、長崎原爆被災者協議会の設立に関わり、1974年には長崎市での平和祈念式典に参加して「平和の誓い」を読み上げました。彼は平和と核廃絶の象徴的な存在となりました。

2012年には、アメリカのハリー・S・トルーマンの孫と面会し、自らの被爆傷を見せました。この体験がどれだけ重要であるかを伝えた谷口の姿勢は、核兵器廃絶の意義を語るものでした。彼が望んだのは、多くの人々に被爆の事実を知ってもらうことでした。

また、2013年には映画監督のオリバー・ストーンとの対話を通じて、自らの経験を語り、彼の言葉は多くの人々に影響を与えました。ストーンは谷口を「物事の善悪を冷静に区別している素晴らしい人」と称賛し、彼の活動が核兵器の問題に真摯に向き合っていることを強調しました。

谷口は長崎の被爆者として、数十年にわたり、核兵器廃絶の署名活動や講演を通じて、未来世代に向けた警鐘を鳴らし続けました。彼の命の炎は、次世代へのメッセージを伝えるために燃え続けたのです。

2017年8月30日、彼は十二指腸乳頭部がんにより逝去しました。享年88歳。その生涯は、多くの人々にとって、核兵器に対する強い抵抗のシンボルとなっています。谷口稜曄の名は、平和への願いと核兵器廃絶の意義を語り継ぐ存在として、これからも多くの人々の心に刻まれるでしょう。

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