谷野ひとし

谷野 均（たにの ひとし）

1947年10月10日に生を受けた谷野均氏は、日本の音楽シーンにおいて重要な足跡を残すベーシストです。特に1960年代後半、孤高のロックバンドとして知られる「ジャックス」の一員として、その革新的なサウンドを支えました。

音楽との出会いとジャックスへの道

谷野氏は和歌山県海南で産声を上げ、およそ4歳を迎える頃に家族と共に千葉市幕張へと居を移しました。幼少期、特に小学生時代には、アメリカ人と結婚していた叔母の影響を通じてブルースという音楽ジャンルに触れ、感受性を育みます。中学生になると、ピックギターを手にし、ハワイアンやウエスタン音楽の演奏に親しみ始め、当時の音楽トレンドを吸収していきました。この頃、レイ・チャールズやリトル・リチャードといった先駆的なアーティストたちの音楽に深く耳を傾けています。

彼のキャリアにおける大きな転機は、1966年5月に訪れます。フジテレビの番組『フォークソング合戦』を偶然目にしていた際、早川義夫氏が率いるグループ「ウィンドミルズ」のパフォーマンスに強い印象を受けました。その後、進学した和光大学において早川氏と運命的な出会いを果たし、これが後のジャックス参加へと繋がります。

1967年1月、谷野氏はベーシストとしてジャックスに加わります。本人の回想によれば、当初フォークソングへの関心はそれほど高くなかったものの、「ロックをやるならベースを担当したい」という強い思いを抱き、ベース経験がないにも関わらず加入を決意したといいます。大学からの帰り道での一幕が、この重要な決断のきっかけだったと語られています。そして、加入から間もない1967年1月27日、渋谷児童会館にて、ジャックスのメンバーとして初めてステージに立ちました。

ジャックスでの活動とベーススタイル

ジャックス時代、谷野氏のベースプレイはバンドの独特な世界観を形作る上で欠かせない要素でした。彼はウッドベースとエレキベースという二種類の楽器を使い分け、それぞれの特性を活かした演奏を展開しました。ウッドベースにおいては、ジャズからの影響を感じさせる流麗でメロディックなフレーズを、エレキベースにおいては、力強く地に足の着いたロックのリズムと響きを表現することに長けていました。この多様かつ独特なスタイルが、ジャックスの実験的で奥行きのあるサウンドを支えていたのです。

解散後の歩みとソロ作品

ジャックスが活動を終えた後も、谷野氏は音楽への情熱を持ち続けました。一時はフォークロックバンド「休みの国」のレコーディングに参加するなど、日本の音楽シーンとの関わりを保ちます。また、その後の人生においては、音楽活動と並行して、二度にわたり遠く北欧の地へと移住するという稀有な経験も積んでいます。

ソロアーティストとしての活動も行っており、1992年6月25日には、自身の名を冠したアルバム『Greasy Spoon』をヴァーンメディアからリリースしています。この作品には「ROCKIN'ALL DAY」、「ROCKIN'CHARE」、「THAI STICK PARTY」、「TANK」、「もつれた生活」、「TEENIE WEENIE」、「ジョーのロック」、「WINCHESTER」、「RISING SUN」、「ANGEL」といった楽曲が収録されており、ジャックス時代とはまた異なる、彼のソロ名義での音楽性が示されています。（なお、ジャックス時代の詳細な作品リストについては、ジャックス_(バンド)の関連項目で確認できます。）

谷野均氏は、日本のロック黎明期において、その独自のベースサウンドでジャックスの音楽性を特徴づけた重要な存在です。バンド解散後も多様な経験を積みながら音楽と向き合い続け、日本の音楽史の一角を担っています。

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