豊城入彦命

豊城入彦命（とよきいりひこのみこと）

豊城入彦命は、古代日本の皇族で、第10代崇神天皇の皇子として記紀に名を残しています。日本書紀では「豊城命」とも表記され、古事記では「豊木入日子命」と記されています。彼は、東国の治定に重要な役割を果たしたとされ、上毛野君や下毛野君といった有力氏族の始祖とされています。

系譜

豊城入彦命は、崇神天皇と荒河戸畔の娘である遠津年魚眼眼妙媛（とおつあゆめまぐわしひめ）との間に生まれました。彼は、後の第11代天皇となる垂仁天皇の異母兄であり、豊鍬入姫命の同母兄でもあります。この系譜は、彼の皇族としての地位と、その後の歴史における影響力を示す重要な要素です。

記録

日本書紀には、崇神天皇が豊城命と活目尊（後の垂仁天皇）のどちらを後継者とするか迷い、夢で判断するという興味深い逸話が記録されています。豊城命は「三輪山に登り、東に向かって槍や刀を振り回す夢を見た」と答え、活目尊は「三輪山に登り、四方に縄を張って雀を追い払う夢を見た」と答えました。この結果、弟の活目尊が国土の安定と農業の発展を象徴する夢を見たとして後継者に選ばれ、豊城命は東国を治めるために派遣されることになりました。この逸話は、古代日本の支配構造や天皇の権威を物語る上で非常に重要です。

墓

豊城入彦命の墓の所在は、現在も特定されていません。群馬県前橋市の総社二子山古墳は、かつて彼の墓として扱われ、墓守も置かれていましたが、後の調査により6世紀末の築造であることが判明し、誤りであると結論付けられました。他にも、前橋市の大室古墳群や茨城県石岡市の丸山古墳が候補として挙げられていますが、いずれも確証には至っていません。これらの墓の探索は、古代の有力者の埋葬習慣や、豊城入彦命の権威を理解するための重要な手がかりとなります。

後裔

豊城入彦命の子孫は、数多くの氏族に広がっています。

子：八綱田
孫：彦狭島王
三世孫：御諸別王
四世孫：荒田別、鹿我別（巫別）、奈良別？、真若（賀表乃真稚命）？
五世孫：竹葉瀬（多奇波世、竹合）、田道、現古
六世孫：奈良別？、真若（賀表乃真稚命）？
八世孫：射狭君
十世孫：佐太公

また、『新撰姓氏録』には、上毛野朝臣、下毛野朝臣、佐味朝臣など、多くの氏族が彼の後裔として名を連ねています。これらの氏族の存在は、豊城入彦命の東国における影響力の大きさを物語っています。

氏族

『新撰姓氏録』には、豊城入彦命を祖とする氏族として、上毛野朝臣、下毛野朝臣をはじめ、佐味朝臣、大野朝臣、池田朝臣、住江朝臣、池原朝臣、車持公、垂水公、田辺史、佐自努公、佐代公、珍県主、登美首、茨木造、大網公、桑原公、川合公、垂水史、商長首、吉弥候部、広来津公、止美連、村挙首、下養公、韓矢田部造、林挙首などが記されています。これらの氏族の分布は、彼の勢力範囲と、その後の東国における政治・文化の発展を理解する上で重要な情報です。

考証

豊城命の説話は、四道将軍の派遣やヤマトタケル伝説など、初期ヤマト王権による地方支配の拡張を示す説話の一部であると考えられています。特に、上毛野氏が氏神として豊城入彦命を赤城神社に祀ったとされる点や、「赤城」の由来が紀伊地方との関連を示唆しているという説は、彼のルーツとヤマト王権との関係を考察する上で重要な要素です。また、魏志倭人伝に登場する卑弥呼や壱与との関連を示唆する説も存在し、これらの考察は、当時の政治情勢と豊城入彦命の位置づけを多角的に捉える上で非常に興味深いものです。

関連神社

豊城入彦命に関連する神社としては、以下のようなものが挙げられます。

宇都宮二荒山神社（栃木県宇都宮市）：下野国一宮として知られています。
赤城神社（群馬県）：群馬県を中心に約300社が存在し、豊城入彦命を祀っています。
赤城神社（群馬県前橋市三夜沢町）：上野国勢多郡の式内社（名神大）の山宮です。
二宮赤城神社（群馬県前橋市二之宮町）：上野国勢多郡の式内社（名神大）の里宮、上野国二宮です。
赤城神社（群馬県前橋市富士見町赤城山）：赤城山頂に鎮座しています。
大荒比古神社（滋賀県高島市）：近江国高島郡の式内社論社です。
下新川神社（滋賀県守山市）：近江国野洲郡の式内社です。
垂水神社（大阪府吹田市）：摂津国豊島郡の式内社（名神大）です。

これらの神社は、彼の信仰が広まった地域と、その影響力を知る上で重要な手がかりとなります。

まとめ

豊城入彦命は、古代日本の歴史において、東国支配の要として重要な役割を果たした皇族です。彼の生涯、子孫、そして彼に関連する神社や伝承は、古代日本の政治・社会構造を理解する上で欠かせない要素です。彼の物語は、現代においても私たちに多くの示唆を与えてくれます。

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