象は忘れない

『象は忘れない』（ぞうはわすれない、原題：Elephants Can Remember）は、1972年に発表されたアガサ・クリスティによる推理小説です。この物語は、エルキュール・ポアロシリーズの長編の中で第32作目に位置付けられています。

概要

ポアロシリーズの中では、1975年に発表された『カーテン』がポアロの最後の作品とされていますが、実際に執筆された順序から考えると、『象は忘れない』がポアロシリーズの最終作にあたると言えます。本作では、クリスティが得意とする「回想の殺人」というテーマが扱われています。特に『五匹の子豚』と関連が深く、登場人物たちの過去の記憶や事件が物語の重要な鍵となっています。また、その他にも『マギンティ夫人は死んだ』や『ハロウィーン・パーティ』に言及されています。タイトルの由来である英語のことわざ「An elephant never forgets.」（象は恨みを忘れない）には、非常に記憶力の良い象の特性が反映されています。

あらすじ

物語は、推理作家のアリアドニ・オリヴァがバートン＝コックス夫人から奇妙な依頼を受けることから始まります。バートン＝コックス夫人の息子デズモンドは、オリヴァが名付け親となったシリヤ・レイヴンズクロフトと婚約していますが、シリヤの両親が巻き込まれた十数年前の心中事件の真相を知りたいというのです。事件では、親友のマーガレット・レイヴンズクロフトとその夫アリステアが遺体で発見された経緯が複雑に絡み合っています。

当時、二人の身近にあった拳銃は二人の指紋が付着しており、果たして心中なのか、あるいは殺人と自殺のどちらなのか、警察は判断を下せなかったのです。この事件により、シリヤともう一人の子供は孤児となりました。ポアロは、オリヴァの相談を受けて、過去の出来事を鮮明に覚えている人物たちを探し出すよう助言します。

ポアロ自身もかつての知り合いであるギャロウェイ元警視に事件の詳細を尋ね、調査に乗り出します。ポアロとオリヴァは、レイヴンズクロフト家の周辺人物の記憶を掘り起こしていくうちに、意外な事実を明らかにしていきます。マーガレットが所有していたカツラの数や、家族に懐いていた犬が事件の数日前にマーガレットを噛んでいたこと、精神に問題を抱えていた妹ドロシアの存在など、思いがけない情報が次々と浮かび上がります。

最終的に、ポアロはバートン＝コックス家の秘密にもたどり着きます。デズモンドは実は養子であり、彼の実母は亡き女優キャスリーン・フェンであったことがわかります。この女優は、デズモンドが成人または結婚をするまで遺産を信託していたため、バートン＝コックス夫人はデズモンドとシリヤの結婚を阻止しようとしている可能性が浮上します。

ポアロはついに事件を解明し、実際にアリステアと一緒に死んだのは妻マーガレットではなく妹ドロシアだと判明します。事件が引き起こした悲劇は、デズモンドとシリヤの未来をも脅かすものでしたが、彼らは助け合いながら新たな生活へと進むことを決意します。

登場人物

- アリアドニ・オリヴァ：推理作家
- ミス・リヴィングストン：オリヴァの秘書
- ミセズ・バートン＝コックス：未亡人
- デズモンド：バートンの養子
- シリヤ・レイヴンズクロフト：オリヴァの名付け子
- アリステア・レイヴンズクロフト：シリヤの父
- マーガレット・レイヴンズクロフト：シリヤの母
- ドロシア・ジャロー：シリヤの伯母
- ゼリー・モーウラ：シリヤの家庭教師

翻案作品

『象は忘れない』は、数回テレビドラマやラジオドラマとしても再現されています。特に2013年に放送された『名探偵ポワロ』のエピソードでは、ストーリーの深みを感じさせながらも新たな要素が加えられています。

このように、『象は忘れない』はクリスティの推理小説の中でも特に記憶と過去が大きなテーマとして描かれた作品であり、ポアロの最後の謎解きを楽しめる作品となっています。

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