財物

刑法における「財物」とは

刑法における「財物」とは、主に窃盗罪や強盗罪などの移転罪（広義の奪取罪）の客体となるものです。この「財物」の定義は、条文上明確に規定されているわけではなく、学説や判例によって解釈が分かれています。一般的には、他人の財物を窃取した場合に窃盗罪（刑法235条）、暴行や脅迫を用いて他人の財物を強取した場合に強盗罪（236条）が成立します。

財物の範囲に関する議論

「財物」の範囲については、民法85条の「物」と同義で有体物であると解釈する説（有体物説）が有力です。しかし、刑法36章の罪においては、電気も財物とみなされるという特例（刑法245条）があります。これは、電気も財産的な価値を持ち、窃取されることで財産上の損害が発生するためと解釈されます。また、過去の大審院判例では、財物について可動性や管理可能性があれば足りるとする説（管理可能性説）もありましたが、現在ではこの説は支持されていません。

財物と認められるためには、何らかの財産的な価値があることが必要です。ただし、必ずしも市場で取引されるような価値である必要はなく、本人にとってのみ価値がある物（例えば、感情的な意味合いを持つ品）や、所有権の対象とならない禁制品も財物に含まれるとされています。一方で、人体や葬祭の対象物については、財物性が争われており、特に臓器の財物性については近年議論が活発です。

窃盗罪等においては、行為の対象となるのは「他人の財物」です。原則として、自己の財物は対象となりませんが、他人が占有していたり、公務所の命令によって他人が看守している自己の財物については、「他人の財物」とみなされます（242条、251条）。

賭博罪における「財物」

賭博及び富くじに関する罪（刑法185 - 187条）における「財物」は、窃盗罪等における定義とは異なります。賭博罪における「財物」は、広く財産上の利益があれば対象となり、有体物に限られません。したがって、オンラインゲームのアイテムなど、有体物ではないものであっても、リアルマネートレーディングのように財産上の利益を生む場合は「財物」に含まれる可能性があります。ただし、有体物であっても「一時の娯楽に供する物」（缶ジュースや食事など）については、「財物」とはみなされません。

古代律令法における「財物」

古代律令法においては、「財物」とは今日でいう動産の中でも簡単に移動可能なものを指していました。条文には具体的な品名が記されている場合もありますが、それ以外のものは「財物」として一括りにされていました。また、奴婢や家畜などの生きているものは、「財物」からは除外されていました。例えば、「奴婢雑畜田宅及余財物」という記述や、「私財物奴婢畜産之類」といった表現が見られ、土地や家、車、船、碾磑、家畜、奴婢などの具体的な財産とともに、「財物」が併記されています。これは、上記に挙げられたもの以外を指すものとして「財物」が用いられていたことを示しています。

このように、「財物」という言葉は、時代や法律、文脈によってその意味合いが変化しています。特に、刑法における「財物」の定義は、社会の変化や技術の進歩に伴い、常に議論と解釈が重ねられている重要な概念です。

参考資料

佐久間修『刑法各論』（2006年、成文堂）
笠原永遠男「財物」『国史大辞典』第8巻（1985年、吉川弘文館）

関連項目

電気窃盗
情報窃盗
* 財産上の利益

もう一度検索