貯蓄率

貯蓄率とは

貯蓄率とは、個人の所得のうち、消費されずに貯蓄に回される割合を示す指標です。貯蓄には、預金や投資などが含まれます。貯蓄率は、経済状況や個人の消費行動を分析する上で重要な指標の一つです。本稿では、貯蓄率の定義、家計貯蓄率の算出方法、そしてその推移について詳しく解説します。

貯蓄率の定義

貯蓄率には、家計貯蓄率と国民貯蓄率の2つの概念があります。

家計貯蓄率: 家計の可処分所得（税金や社会保険料などを差し引いた、自由に使えるお金）に対する貯蓄額の割合です。個人の消費行動を分析する上で重要な指標です。
国民貯蓄率: 国全体の貯蓄額を国民可処分所得で割ったものです。国の経済状況を分析する上で重要な指標です。

本稿では、特に家計貯蓄率に焦点を当てて解説します。

家計貯蓄率の算出方法

家計貯蓄率は、以下の式で算出されます。

家計貯蓄率 = 家計貯蓄（純） ÷ （家計可処分所得（純）＋年金基金年金準備金の変動（受取））

ここで、

家計貯蓄（純）: 家計が貯蓄した金額から、固定資本減耗（設備の老朽化による価値の減少）を差し引いたものです。
家計可処分所得（純）: 家計の所得から、税金や社会保険料、および固定資本減耗を差し引いたものです。
年金基金年金準備金の変動（受取）: 年金基金の準備金の増減です。

国民経済計算における家計貯蓄率は、家計可処分所得から家計最終消費支出を差し引き、年金基金準備金の変動を加えたものを、家計可処分所得と年金基金準備金の変動の和で割って算出されます。また、国民経済計算上の可処分所得は固定資本減耗を控除しており、貯蓄は純貯蓄として扱われます。さらに、国民経済計算では、所得と消費の両方に帰属家賃が計上されることや、高齢者を含む無職世帯など、勤労者世帯以外も含まれている点が、家計調査とは異なります。

家計調査における貯蓄率

家計調査には、平均貯蓄率と黒字率がありますが、経済学で言う貯蓄率に近いのは黒字率です。家計調査の黒字は、可処分所得から消費支出を差し引いたもので、これを可処分所得で割ったものが黒字率となります。

家計調査における貯蓄率は、貯蓄純増額を可処分所得で割った比率です。貯蓄純増額は、預貯金と保険の純増の合計であり、経済学的な貯蓄の概念よりも狭い意味で使われることに注意が必要です。

経済関係の文献では、家計調査の黒字率を貯蓄率として言及することが多いため、注意が必要です。また、家計調査では、所得調査が行われるのは勤労者世帯（農家世帯を除く）と無職世帯（高齢者は1986年から、全年齢は1989年から）に限られています。一般的に家計調査の貯蓄率として言われる数値は、ほとんどの場合、勤労者世帯の黒字率を指すことに留意が必要です。

家計貯蓄率の推移

国民経済計算による家計貯蓄率は、1955年度から1974年度にかけて上昇し、その後2013年度まで減少傾向が続きました。しかし、近年は再び上昇に転じています。1973年度には23.2%であった家計貯蓄率は、2004年度には2.7%まで低下し、2013年度には-0.6%とマイナスを記録しましたが、2019年度には5.6%まで回復しています。

一方、家計調査の黒字率は、1980年代から1998年まで上昇傾向にありましたが、その後は低下傾向にあります。家計調査は高齢化の影響が小さいため、2005年の勤労者世帯の黒字率は25.3%と、国民経済計算の家計貯蓄率とは大きな隔たりがあります。また、同年の平均貯蓄率は16.1%でした。

家計貯蓄率減少の要因

2013年度までの日本の家計貯蓄率の減少には、以下の要因が考えられます。

インフレ率の低下: インフレ率が高くなると、資産（金融資産や不動産など）の価格上昇率が高くなり、投資（貯蓄の一部）に回るお金が増える傾向があります。
高齢化率の上昇: 高齢者は年金生活が中心となるため、貯蓄率が低い傾向があります。
税および社会保険料率の上昇: 税金や社会保険料の負担が増加すると、貯蓄に回す余裕が減る傾向があります。

また、2013年に黒田東彦氏が日本銀行総裁に就任し、日本銀行のインフレ率に対する政策は大きく変化しました。また、家計貯蓄率が最も高かった1974年度は、金融緩和によりインフレ率が最も高い時期でもあります。

まとめ

貯蓄率は、経済状況や個人の消費行動を分析する上で重要な指標です。家計貯蓄率は、家計の可処分所得に対する貯蓄額の割合を示し、国民経済計算と家計調査の双方で算出されています。家計貯蓄率は、過去には大きく変動しており、その変動にはインフレ率、高齢化率、税・社会保険料率などが影響を与えていると考えられています。

外部リンク

国民経済計算（GDP統計） - 内閣府
* 統計局ホームページ/家計調査

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